凍獄の序章
魔王城最奥。
新たな魔王――
グラキエス=ノクティスが静かに立っていた。
アッシュは黒炎を纏い、
黒焔剣を構える。
「……行くぞ」
黒炎が噴き上がり、
空気が震える。
グラキエスは微笑んだまま、
まるで散歩に誘うような柔らかい声で言った。
「ええ……どうぞ。
あなたの“足掻き”には興味がありますから」
アッシュが踏み込む。
黒焔剣が、魔王の胸元へ迫る。
だが――
グラキエスは避けない。
指先を軽く動かしただけで、
黒炎が凍りつき、砕け散った。
アッシュは後退しながら黒炎を再構築する。
「……まだだ!」
黒炎の奔流がグラキエスを包む。
しかし――
「……綺麗ですね。
ですが、温度が足りませんよ」
黒炎は一瞬で凍りつき、
氷の棘となってアッシュの身体に突き刺さった。
「ぐっ……!」
レーネが叫ぶ。
「アッシュ殿!!」
氷の棘が胸を貫き、
アッシュは膝をつく。
血が床に滴り落ちる。
グラキエスは優しく微笑んだ。
「その程度で倒れるあなたではないでしょう?」
アッシュは震える手で剣を支え、
かすれた声で呟く。
「……まだ……終わってない……!」
アッシュの身体から、
黒炎とは違う“白い光”が溢れ出した。
白炎が傷を焼き、
血が止まり、
砕けた骨が繋がる。
ポルが息を呑む。
「アッシュ……その炎……!」
アッシュは立ち上がる。
「……まだ……戦える……!」
グラキエスは嬉しそうに目を細めた。
「……その白炎。
本当に厄介ですね。
あなたが倒れない理由がよく分かります」
アッシュが白炎で回復している間、
レーネ、カリム、ポルが前に出た。
レーネ「アッシュ殿を守る!」
カリム「時間を稼ぎます!」
ポル「来いよ、氷野郎!」
三人の動きは必死で、限界ギリギリだった。
レーネは氷の盾を何度も展開し、グラキエスの凍気の刃を受け止める。
肩が軋み、膝が震むが、盾を押し返して仲間を守る。
カリムは矢を次々放つ。
一矢ごとに凍り、砕け散る。だが、彼は手を止めず、魔力の圧力を削ぎ続ける。
「……まだです……!」
ポルは両刃剣で攻撃を受け流す。
氷柱や凍気の衝撃で痛みが走る。腕が痺れ、血が滲む。
だが、間合いを保ち、仲間の時間を稼ぎ続ける。
「くそ……簡単には……倒れんぞ……!」
三人の奮闘は壮絶だが――
グラキエスは微笑んだまま、一歩も動かない。
「頑張っていますね。
ですが――」
グラキエスの表情が、わずかに変わった。
「……少し鬱陶しくなってきました」
その声は優しく、
しかし世界を切り裂くほど冷たかった。
指先が軽く振られる。
空間そのものが凍りつき、
レーネ、カリム、ポルの三人を一瞬で氷の檻に閉じ込めた。
レーネ「アッシュ殿……っ!」
カリム「動け……ない……!」
ポル「くそっ……!」
アッシュが叫ぶ。
「やめろ!!」
グラキエスは微笑む。
「安心してください。
彼らは殺しませんよ」
「私が世界を凍らせる瞬間を、
歴史の証人として見届けてもらうために」
アッシュの瞳が揺れる。
「……ふざけるな……!」
白炎で回復を終えたアッシュが、
黒炎を再び纏い、
魔王へと向き直る。
グラキエスは嬉しそうに微笑んだ。
「続けましょうか。
あなたの“足掻き”は、まだ見ていたいのです」
玉座の間に、
静かで残酷な声が響いた。




