崩れゆく戦線
魔王城外。
空は黒く濁り、瘴気が風に乗って肌を刺す。
ザラフのショーテルが閃くたびに魔族が倒れるが、
その背後から、また新たな群れが押し寄せてくる。
ポポは額に汗を浮かべながら詠唱を続けていた。
「雷槍乱舞――ッ!」
無数の雷槍が降り注ぎ、前列の魔族を焼き払う。
だが、焼け焦げた死体を踏み越えて、次の波がすぐに迫る。
ザラフは息を荒げながら呟く。
「……終わりが見えないな」
ポポは苦笑した。
「最初から、終わりなんて期待してないよ。
“時間を稼ぐ”って、そういうことだから」
ザラフは横目で彼を見る。
その瞳には、覚悟が宿っていた。
ザラフは鼻で笑う。
「……同じ覚悟だ」
二人は武器を握り直し、前へ踏み出す。
魔王軍の咆哮が響く。
地面が揺れるほどの数が押し寄せてくる。
ザラフはショーテルを構え直し、低く呟いた。
「……アッシュ。
お前たちが中で戦ってるなら、俺たちもここで倒れるわけにはいかない」
二人は背中合わせに立つ。
ポポが笑う。
「じゃあ、もう少しだけ頑張ろうか」
ザラフも笑った。
「“少し”で済めばいいがな」
魔王軍が一斉に突撃してきた。
ザラフは前へ。
ポポは後ろへ。
ショーテルが肉を裂き、
雷撃が空を裂き、
炎が爆ぜ、
氷が砕け、
二人の魔力と技が戦場を切り開く。
だが――
限界は、確実に近づいていた。
ポポの魔力は底をつきかけ、詠唱の言葉が途切れかける。
ザラフの腕は痙攣し、ショーテルを握る指に力が入らない。
足元には倒した魔族の山。
だが、その上にさらに死体が積み重なっていく。
それでも魔王軍は止まらない。
ポポは膝をつきかけながら呟く。
「……ザラフ、もう……」
ザラフは血を拭い、前を睨む。
「立て。まだ終わってない」
ポポは震える手で杖を支え、立ち上がる。
その瞬間――
空気が変わった。
音が消えた。
魔族たちの咆哮すら、一瞬で途切れる。
次の瞬間――
魔力が“押し潰すように”流れ込んできた。
ザラフの表情が強張る。
「……嘘だろ」
魔王軍の奥から、二つの影が歩いてくる。
焦土を統べし者、バルザ=ラグナフレア。
雷哭を統べし者、ルミエル=ヴォルト。
魔王軍四天王――二人同時。
ポポは絶望を隠せず呟く。
「……なんで……ここに……」
ザラフはショーテルを握り直すが、
その手はわずかに震えていた。
「……ここまでか」
バルザが笑う。
「ネズミどもがこそこそ動いてると聞いてな。
挟み撃ちにしてやろうと思ったら」
ルミエルが冷たく言う。
「たった二人で後方を戦うとは。
さっさと死ね、人間」
ポポは歯を食いしばる。
「……みんな……ここまでか……」
ザラフは一歩前に出る。
その背中は、覚悟を決めた戦士のものだった。
「ポポ。
最後まで時間を稼ぐぞ」
ポポは震える声で答える。
「……わかった」
二人は、絶望の中で武器を構えた。
魔王城外の戦線は――
静かに、確実に、
終わりへと沈んでいった。




