魔王城への道
ザラフとカリムが帰還した。
二人は、やや疲れた表情をしていたが、目は鋭く光っていた。
「魔王城、今は静かだ」
ザラフの声は低く、力強く響いた。
「城内に敵の影はほとんどなかった……だが、油断はできん」
カリムは冷静に続く。
「罠の可能性が高いです。慎重に行動すべきでしょう」
アッシュは黙って聞く。
ポルは肩をすくめ、言葉少なに頷いた。
「……だが、今しかない」
アッシュの声には迷いがなかった。
「戦力が整う前に叩く。それが、今できる最善だ」
レーネが小さく頷く。
「……わかりました。全力で臨みましょう」
ポポも腕を組み直す。
「長引かせるより、一気に決めるべきだね」
ザラフは視線を城に向け、短く言う。
「……よし。俺たちも準備はできてる」
夕陽が城の石壁を赤く染める中、静かに覚悟を共有する一行。
風が吹き、深紅の髪を揺らすアッシュの瞳に、決意が宿る。
「……明日の早朝、行くぞ」
誰も異論はない。
魔王城への道——
危険が待つその先に、戦いが待ち受けている。
今はただ、静かにその時を待つのみ。
深夜、ザラフの部屋がノックされる。
それはポポだった。
ザラフはなんとなく来訪の理由を理解しながら部屋に招き入れる。
ポポが口を開く。
「......罠だね。
それもとてもタチが悪い。
今の状況......二十年と同じだ」
ザラフは応える。
「気づいたか。
あの時も好機とみて俺たちは魔王城へ突入した。
その後......本隊が後方より奇襲を受けた。
アッシュ達がいなければ俺たちは魔王城で挟み撃ちを受けていた」
ポポは唇を噛み締める。
「そうだね。
今回もそれが狙いだろう」
二人の間に沈黙が流れる。
ザラフが重い口を開く。
「......お前はあいつらのための矛だろ。
今は前の敵を殲滅する魔法だけを考えろ」
ポポは目を見開き、息を詰めてザラフに問う。
「……まさか……君は……それだけは……」
ザラフは軽く首を振り、沈黙を貫く。
言葉は不要だった。二十年前の絆が、互いの意図を理解させていた。
夜が明け、空は淡い灰色の光に包まれていた。
イシュヴェル城の門前に集まる一行。装備を整え、目には決意が宿る。
ザラフは軽く肩を揺らし、深呼吸する。
「よし、行くぞ。魔王城周辺は静かだ。だが、何が起こるか分からん。油断はするな」
カリムは地図を手に、城までの道筋を静かに確認する。
「皆さん、気を抜かないでください。罠があれば、入り口付近からでも危険です」
アッシュは二振りの剣を背に背負い、視線を遠くの魔王城に据える。
「……決着を付ける。行くぞ」
ポルは短く笑い、拳を握る。
「さて、久しぶりに骨のある相手とやれるか」
レーネとポポもそれぞれ魔力を整え、心を静める。
魔王城までの道は、見た目には何事もない平穏。
だが、誰もが胸の奥で戦慄を感じていた——今の静けさは、逆に危険を知らせる沈黙なのだと。
ザラフは低く呟く。
「罠だろうと構わん。俺たちで突き破る」
カリムは冷静に頷き、弓を握り直す。
「承知しました。皆さん、注意を怠らずに」
淡い朝の光に城壁が照らされる中、シグル王子が静かに姿を現した。
「皆さま、どうかお気をつけください。
そして世界をお救いください」
その声は丁寧で穏やかだが、背後にある緊張感は隠せなかった。
レーネは跪き、胸に手を当て深く頭を下げる。
「このレーネ=ヴォルト。
貴殿の命に従い、身命を賭して戦うことを誓います」
アッシュは軽く頭を下げる。
「……心配は無用だ。必ず戻る」
ポルが肩をすくめ、軽く笑った。
「戻ったら酒で祝おうぜ、シグル」
シグルは微笑み、静かにうなずいた。
「ええ。それでは、無事を祈っております」
その視線が、一行の背中を最後まで見送った。
そして一行は、静かに、しかし確実に魔王城へと歩みを進めた。
城の影が近づくにつれ、心臓の奥で、決戦の鼓動が鳴り響く——




