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罪と赦しの刃

それから数日。


イシュヴェル城は、静かな緊張に包まれていた。


戦場の後処理、負傷兵の手当て、各国への通達。

そして——来るべき決戦への準備。


城内では、それぞれが己の役割を果たしていた。


ザラフとカリムは、魔王城の動向を探るため外へ。

ポポとレーネは、魔力の練成と戦術の再構築に集中している。


ポルは腕を組みながら、中庭で空を見上げていた。

「……そろそろだと思うがな」


その隣で、アッシュは静かに立っている。

風が吹き、深紅の髪が揺れた。


以前よりも穏やかな気配。

だがその奥にある力は、明らかに別物だった。


その時——

「ポル殿!」


兵士が駆け込んでくる。

「ドワルガンより使者が到着しました!

 ガンリックと名乗っております!」


ポルの口元がわずかに緩む。

「……来たか」


アッシュがゆっくりと視線を向ける。


「俺の剣を打っていた鍛冶師だ。

 前は時間がなくて、試作しか受け取れなかった」

短い説明だったが、それで十分だった。


兵士は深く頷く。

「現在、中庭へご案内しております!」


ポルは肩を鳴らす。

「行くぞ、アッシュ」


「……ああ」


二人は歩き出した。


中庭。


夕暮れの光が、石畳を赤く染めている。

その中央に、一人のドワル族の男が立っていた。


背には、布に包まれた二振りの長剣。


ドワルガンの鍛冶師——赤炉の工房のガンリック。


その周囲には衛兵が数人。

だが誰も、その荷に触れようとはしない。


アッシュとポルが歩み寄る。

ガンリックはゆっくりと頭を下げた。

「お久しぶりです、ポルさん」


ポルは軽く手を上げる。

「よく来てくれたな。

 助かるぜ」


ガンリックは微かに笑みを浮かべた。

「完成した剣をどうやって届けようか悩んでいたところでした」


そして視線が、アッシュへと向く。

「お久しぶりです、アッシュさん。

 ......世間ではあなたのことを悪く言う者もいますが、俺はあなたの味方です」


アッシュは小さく頭を下げて応える。

「......感謝する」


ガンリックは背の剣を外した。

「試作段階しかお渡しできませんでしたが遂に完成しました」


布に包まれたそれを、ゆっくりと前に置く。


ポルが口を開く。

「ずいぶん大層なもんになってそうだな」


ガンリックは静かに首を振る。

「いえ。これはもはや、“武器”ではありません」


一拍。


「あなたの“在り方”を形に出来ました」


そう言って、布を払う。

——空気が変わった。

現れたのは、二振りの剣。


一本は、光を吸い込むような漆黒。

もう一本は、淡く輝く白銀。


対照的でありながら、どこか調和している。


ガンリックは黒の剣を手に取る。

「——《黒焔剣・ノクス=インフェルナ》」


低く、響く声。

「深淵の炎を宿す刃。

 あなたの“罪”と“怒り”を、力へと昇華する剣です」


続いて白の剣を掲げる。

「——《白煌剣・ルクス=セラフィア》」


その声は、わずかに柔らかくなる。

「浄化と守護の光を宿す刃。

 あなたの“赦し”と“想い”を、形にするための剣」


ポルが小さく息を吐く。

「……とんでもねぇな」


ガンリックは淡々と続ける。

「相反する二つの力。

 本来であれば、決して共存出来ません」


そして、アッシュを見据える。

「ですが——アッシュさんなら扱えると信じています」


沈黙。


アッシュが一歩、前へ出る。

二振りの剣を受け取った瞬間——


黒炎が、わずかに揺れた。

同時に、白い光が静かに呼応する。

まるで、剣が主を認めたかのように。


アッシュは軽く振る。

空気が裂ける。

ほんの一振りで、それが“本物”だと分かる。


「……いい剣だ」

短く、それだけ。


ガンリックは静かに頷いた。

「……父ガンロフも」


一瞬だけ視線を落とす。

「きっと、喜んでいます」


ポルが笑う。

「二人分の想い、背負うことになるな」


アッシュは二振りを見下ろし、静かに言う。

「……ああ」


その瞳に、迷いはなかった。


夕陽が沈み、影が伸びる。

決戦の時が、確実に近づいていた。

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