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氷の国の庇護

森を抜け、山道を越え、川沿いを進み続けて三日が経った。

アッシュは依然として目を覚まさず、仲間たちは交代で彼を背負いながら歩き続けた。

昼は帝国の追手を警戒しながらの強行軍。


レーネが前を見据え、静かに呟く。


「……もうすぐです。

 この先の峠を越えれば……イシュヴェルの城壁が見えるはず」


ポルはまだ完全ではない身体を押しながら、アッシュの隣を歩く。


「アッシュ……もう少しだ。

 お前を守れる場所まで……あと少しだ」


ザラフは周囲を警戒しながら、低く言った。


「帝国の追手は……今のところ来てないな。

 だが油断はできない。急ぐぞ」


山霧が薄くなり始めた頃、城壁が視界に現れた。

氷と石を組み合わせた二重構造。

戦争の名残をそのまま残した、威圧的な防衛線。


イシュヴェルの東門。

長い旅路の果てに、ようやく辿り着いた安全圏だった。


門前には、普段よりも多くの兵士が立っていた。

魔王アーク=ノクティス復活の兆候が、エルフェリアから通達されていたため、イシュヴェルは警戒を強めていた。

槍を構え、互いに目を光らせる兵士たち。彼らの緊張は、単なる門番のものではなかった。


「止まれ! 身分を示せ!」


レーネが一歩前に出て胸を張る。

「私はイシュヴェル王国近衛兵、レーネ=ヴァルト。

 こちらの者達は仲間です。早急にシグル王子殿下に謁見せねばなりません。通してください」


兵士たちは互いに視線を交わし、一瞬の沈黙の後、すぐに一人が城へ駆けていった。


「シグル王子殿下よりレーネ=ヴァルト一行が帰国した際は速やかに城に訪れるよう伝言を承っております。

どうぞお通りください」


門番は道を開き、一行は城へと向かった。

城門をくぐり、奥へ進むと、城内の客室へと通される。

カリムはそっとアッシュをベッドに寝かた。


扉が静かに叩かれた。


「……失礼いたします」


控えめな声とともに扉が開き、

淡い金髪の青年――シグル王子が姿を現した。


レーネが姿勢を正す。


「殿下。戻りました」


シグルは軽く頷き、部屋の中央へ進む。

視線はすぐにアッシュへ向けられた。


眠るアッシュの顔を見た瞬間、

その瞳がわずかに揺れる。


「……よくぞ、ご無事で戻られました」


静かな声だったが、

その奥には抑えきれない安堵があった。


ポルが軽く頭を下げる。


「世話になる」


カリムは無表情で一礼した。


「カリムと申します。

 この度のご対応に感謝いたします」


シグルはポルとカリムに頷き返し、

次に部屋の隅で控えていた二人へ視線を向けた。


ポポは緊張した面持ちで胸に手を当てる。


「エルフェリア冒険者ギルドマスター、ポポです。

 殿下……我々をお受け入りくださり、ありがとうございます」


シグルは柔らかく微笑んだ。


「あなたがポポ殿ですね。

 エルフェリアのギルドは、我が国も大変お世話になっています。

 ……アッシュ殿を守ってくださり、感謝します」


ポポの肩がわずかに震えた。

安堵と誇りが入り混じったような表情だった。


続いて、ザラフが一歩前に出る。

シグルは自然と背筋を伸ばした。


「ゼル=アラド族長、ザラフだ。

 ……アッシュは、我らの仲間だ。

 ここまで運ばせてもらった」


シグルは真剣な眼差しでザラフを見返す。


「あなたが……ザラフ殿。

 ゼル=アラドの族長が味方であることは、

 我が国にとって何より心強い」


ザラフは短く頷いた。


「恩は返す。それだけだ」


シグルは再びアッシュへ視線を戻し、

その枕元にそっと近づいた。


「……相当、無理をされたのでしょう。

 まずは体を休めていただくことが最優先です」


そして振り返り、皆へ向けて言う。


「イシュヴェルは、あなた方の味方です。

 帝国の動きは把握しています。

 どうか安心してお休みください」


レーネが深く頭を下げる。


「ありがとうございます、殿下」


シグルは静かに頷き、続けた。


「食事もご用意しております。

 温かいものをすぐにお持ちしますので……

 皆さまもどうか、少しでも力を取り戻してください」


最後にもう一度アッシュへ視線を落とし、

小さく息を吸った。


「……必ず守ります。

 ここは、あなた方の安全な場所です」


その言葉を残し、

シグルは静かに部屋を後にした。


扉が閉まると、

暖炉の火の音だけが静かに響いた。

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