エリシアの残した奇跡
帝国を抜けた一行は、森の奥深くへと逃げ込んだ。
アッシュは意識を失ったまま、地面に横たわる。ポルの亡骸も隣に置かれ、カリムがアッシュを軽く支えて体勢を整えた。
レーネは震える手でポルの胸に寄り添い抱え込み、ポポは涙を拭いながら後ろを振り返り続ける。
ザラフが低く言った。
「……ここなら追手は来ないだろう。少し休むぞ」
木々の間に小さな空間を見つけ、一行はそこに腰を下ろした。
だが、誰も言葉を発さない。
視線はただ一つ——横たわるポルとアッシュに向けられていた。
レーネが震える声で呟く。
「……ポル殿……どうして……どうして……」
ポポは膝をつき、ポルの手を握りしめた。
「……いやだ……こんなの……いやだ……」
ザラフは拳を握り、歯を食いしばった。
「……こいつは……いつも……アッシュとエリシアを見守っていた……最後まで……」
カリムは静かに目を閉じる。
「……アッシュ殿を守るために……命を……」
森の空気は重く、誰もが喪失の痛みに沈んでいた。
その時だった。
ポルの身体から、ふわりと光が漏れた。
レーネが息を呑む。
「……え……?」
光は弱々しいものではない。温かく、優しく、どこか懐かしい光だった。
ザラフが目を見開く。
「まさか……エリシアの……?」
——ポルが死んだその時に発動する、エリシアは秘かに蘇生魔法を唱えていた。
戦場で果てた大切な者を守るため、死を感知した瞬間に自動で発動する魔法。
その光は、ポルの命を静かに呼び戻すためのものだった。
光はポルの胸元から広がり、森の闇を静かに照らし始めた。
その光の中に——“誰かの姿”が見えた。
柔らかな微笑み。エリシアだった。
エリシアの幻影は、ポルの胸にそっと手を置く。
声は風のように優しく、しかし確かに聞こえた。
「……ポル……あなたは……ずっと私たちを守ってくれた……ありがとう……もう一度……生きて……」
光がポルの身体に吸い込まれていく。
その光は、隣に横たわるアッシュにも柔らかく触れ、彼の胸の熱を和らげるように見えた。
レーネが涙を流しながら叫ぶ。
「エリシア殿……!どうか……!」
ポポは両手を胸に当て、祈るように呟く。
「戻ってきてくれ……!」
ザラフは震える声で言った。
「……頼む……戻ってこい……!」
光が強くなり、森全体が昼のように明るくなる。
そして——
ポルが深く息を吸い込んだ。
「……っ……!」
レーネが叫ぶ。
「ポル殿!!」
ポルの指が動き、ゆっくりと目が開いた。
「……あれ……俺……死んだんじゃ……?」
ポポが泣きながら抱きつく。
「死んでたよ!!でも……戻ってこれた……!!」
ザラフは涙を拭い、笑った。
「……ったく……心配かけやがって……!」
カリムは深く頭を下げる。
「……おかえりなさい、ポル殿」
アッシュはまだ意識が戻らず、横に寝かされている。だが光が届き、彼の呼吸がゆっくりと整い始めた。
ポルはぼんやりと空を見上げた。
そこには、エリシアの光がゆっくりと消えていく姿があった。
「……エリシア……ありがとう……」
森には静寂が戻り、ただ一つ——
“仲間が戻ってきた”という温かさだけが残った。




