黒炎、帝都を呑む
《光縛》が悲鳴を上げて焼き切れ、束縛は消え去った。
視界が赤と黒に染まり、熱と轟音が広場を飲み込む。
大地が揺れ、空気が裂け、石畳が溶ける。
アッシュの怒りと記憶が、世界を押し潰すほどの熱量となって、帝都中央広場を覆った。
レオンが目を見開く。
「……これが……
本来の“炎獣イグナ=レクス”の力……!」
アッシュの瞳は赤く染まり、
人のものではなくなっていた。
「アッシュ殿!!」
レーネとカリムが駆けつけるが、
アッシュはもう誰の声も届かない。
黒炎が暴走し、
広場の石畳が溶け、
帝国兵が次々と吹き飛ばされる。
レオンだけが笑っていた。
「やっと……本来の力を取り戻したね。
これでこそ、帝国の“光”に相応しい」
アッシュはレオンを見た。
その瞳には、
怒りも悲しみもない。
ただ——
破壊の炎だけが宿っていた。
黒炎が帝都中央広場を飲み込んでいた。
石畳は溶け、空気は震え、世界が軋むような音が響く。
アッシュは暴走の中心に立っていた。
瞳は赤く染まり、
黒炎がその身体から絶え間なく吹き上がっている。
もはや“人”の気配はなかった。
レオンは白銀の鎧を焦がしながら、
それでもアッシュに向かって歩み寄る。
「アッシュ!
聞こえないのか!」
声は届かない。
アッシュはただ、
破壊の炎を周囲へ撒き散らすだけだった。
レオンは光の翼を広げ、
光の槍を生成する。
「戻るんだ!
帝国の“光”に!」
その言葉すら、
アッシュの炎に飲まれて消えた。
アッシュが振り向いた瞬間、
黒炎が爆発した。
レオンは咄嗟に光の盾を展開するが、
盾は触れた瞬間に砕け散る。
「……っ!」
アッシュは地を蹴り、
一瞬でレオンの懐に迫った。
黒炎が渦を巻き、
レオンの光を押し潰す。
レオンは必死に光を放つ。
「やめろ……アッシュ!!
僕は——」
その声は、
炎の轟音にかき消された。
アッシュの腕が振り抜かれ、
黒炎がレオンを包む。
光と炎がぶつかり、
世界が白く染まる。
レオンの姿が揺らぎ、
光が散った。
次の瞬間——
レオンは崩れ落ちた。
白銀の鎧は砕け、
光はもうどこにもなかった。
アッシュは立ち尽くしたまま、
炎だけが静かに揺れていた。
その背に、
“帝国の英雄殺し”という烙印が刻まれた。
アッシュはレオンの亡骸を見ることもなく、
ただ炎の向かうままに歩き出す。
大地が揺れ、空気が裂け、石畳は黒く溶ける。
帝都中央広場は、赤と黒に染まる炎に包まれ、
叫ぶ人々も、混乱する兵士も、ただ炎の渦に飲み込まれていった。
アッシュは立ち尽くしたまま、破壊の中心にあった。
怒りも、悲しみも、憎悪も、もはや彼の中にはなく、
あるのは——ただ、止められぬ炎の奔流だけだった。
帝都の空は、黒炎に赤く染まり、
世界の秩序は、たった一人の暴走によって音を立てて崩れていく。




