重なる最後の言葉
帝都中央広場。
昼の光が差すはずの空は、どこか鈍く重い。
多くの国民が集まり、肌に感じる熱気は異様で、呼吸さえ乱れるようだった。
人々の視線はひとつに集中していた。
恐怖と憎悪と、何かにすがるような期待。
誰もが、心の中で一人の男に責任を押しつけようとしていた。
囁きと怯えが混じった声が、広場の空気にざわめきを作る。
恐怖が広がると同時に、好奇心もまた群衆を押し上げていた。
誰もが“自分の目で確かめたい”、そして“この男の罪をこの目で見届けたい”と思っていた。
熱気に押され、呼吸は重くなる。
だがその重さの中で、誰一人としてアッシュの人間性を思いやる者はいなかった。
そこにあるのは、ただ“恐怖を一身に背負わせるための視線”だけだった。
帝都中央広場に静寂が訪れる。
アッシュは十字架の拘束台に縛られ、《光縛》で全身の魔力を封じられていた。
人々の視線が、ひとりの男を一斉に射抜く。
レオンは演壇に立ち、白銀の鎧が陽光を受けて淡く光る。
その瞳は群衆に向けられ、冷たくも確信に満ちていた。
「市民たちよ!」
彼の声は広場を震わせる。
「二十年前、世界は魔王によって蹂躙された。あの戦火を覚えているか?」
群衆は息をのむ。ざわめきと恐怖が混ざり合う。
「そして今、再び魔王の復活が確認された! その裏には、我らが帝国に牙を剥く者がいる!」
レオンはゆっくりと視線を落とし、アッシュを指差す。
「この男、アッシュ=ヴァーンだ。世界樹に侵入し、魔王復活を導いた裏切り者。帝国は、そして我々は決して許さない!」
群衆の怒声とざわめきが一斉に沸き起こる。
「民の皆よ、見届けよ! この裏切り者アッシュ=ヴァーンを処分する!」
「帝国の裁きが、世界の安寧を守るために行われる!」
「二十年前の悲劇を繰り返さぬため、この男の罪を民の目で確認せよ!」
人々の視線はアッシュに集中する。
恐怖と憎悪、好奇心が渦巻き、胸の奥に重くのしかかる。
アッシュの目は虚ろだった。
(……エリシア……
俺は……何を……)
記憶は断片的に蘇り、
しかし繋がらない。
その混乱の中、
レオンが白銀の鎧を纏って現れた。
英雄の姿。
だがその目は、冷たい。
「アッシュ。
君は“魔王を呼び戻した裏切り者”として、
ここで処分される」
アッシュは弱く呟く。
「……俺は……そんな……」
レオンは聞く気もない。
「兵器が壊れたら処分する。
それだけだよ」
レオンは光の槍を生成した。
心臓を貫くための、処刑用の光。
レオンが槍を構え、アッシュの胸へ向けて踏み込む。
空気が裂けるように振動する。アッシュは身動きひとつできない。
(……終わる……俺は……ここで……)
胸の奥がひりつく。魔力も身体も《光縛》に縛られ、逃げ場はない。
光の槍が迫る。
刹那、耳をつんざく叫びが響いた。
「アッシュ!!」
その声に、胸が跳ねた。
吹雪の中で、雪に埋もれたあの日の声と重なる――ポルの声。
視界が揺れる。目の前が一瞬、白と黒の幻影に染まる。
(……エリシア……?)
錯覚か。だが脳は記憶と現実を区別できず、心臓は締めつけられるように震えた。
レオンの槍が、まっすぐ心臓を貫こうと突き出される。
アッシュの身体は、恐怖と怒りで張り裂けそうだった。
「やめろ……! 前に出るな!!」
その叫びは、吹雪の中でポルが言った言葉と重なる。
迷う余地はない。ポルは躊躇なく、アッシュの前に飛び出した。
光の槍が、ポルの胸を貫く。
冷たい金属と熱を帯びた光が、彼の身体を貫く感触がアッシュに直撃する。
視界が揺れ、世界が歪む。
(……同じだ……あの日と……同じ……)
ポルはアッシュの胸に倒れ込み、かすれた声で呟く。
「……アッシュ……お前は……生きろよ……」
その声は、エリシアの最期の言葉と重なる――
──アッシュ。あなたは、生きて。
封じられていた記憶が、一気に胸の中であふれ出す。
エリシアの笑顔、戦場での背中、庇われたあの瞬間。
全てが、痛みと熱量と共に繋がる。
アッシュは叫んだ。
「やめろォォォォォォ!!」
黒炎が、胸の奥から全身を突き破るように爆発した。




