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世界が選んだ罪

数日前、エルフェリアは、世界に向けて緊急通達を発した。


――魔王復活の兆候が確認された。

世界は備えよ。


その知らせは、瞬く間に各国へ広がっていく。

人々は不安に沈んだ。

二十年前の戦火を知る者たちは、再び闇が迫る気配に震えた。


だが――混乱が広がる中、

さらに世界を揺るがす“第二の通達”が届く。


それは、サン=レガリア帝国からだった。


――魔王復活を企てたのは、

二十年前の悲劇を恨む元兵士、アッシュである。


帝国は、アッシュが世界樹に侵入し、

魔王復活を導いたと断じた。


そして、通達には続きがあった。


――アッシュの処刑は七日後、

 世界の安寧を示す儀として、

 帝都中央広場にて公開で執行される。


提示された“証拠”は整えられ、

語られた“動機”はもっともらしく、

世界はその物語を疑う術を持たなかった。


恐怖は、真実よりも速く広がる。


アッシュの名は、

瞬く間に“世界の敵”として刻まれていく。


世界は、迫りくる闇への不安を

一人の男に押しつけることで、

わずかな安堵を得ようとしていた。


その頃、アッシュは帝国城の地下では、

世界のどこかで自分の名が歪められていることも知らず、

ただ静かに沈んでいた。


世界を揺るがす二つの通達が発されたその頃、

帝都への街道を、一人の影が静かに進んでいた。


カリムだった。


アッシュの行方を追うため、

そして帝国が何を隠しているのかを確かめるため、

彼は単身で帝都へと潜入するためだ。


街道には検問が増え、

兵士たちの表情には緊張が張りついている。

魔王復活の噂が広がり、

帝国は外からの侵入者に敏感になっていた。


そんな中、

帝都へ向かう旅人たちの間で、

ある話題が囁かれていた。


――魔王復活を企てた男が捕まったらしい。

――名前はアッシュ。

――七日後に公開処刑だと。


カリムの足が止まった。


耳を疑うような言葉が、

次々と旅人の口からこぼれていく。


二十年前の悲劇を恨む元兵士。

世界樹に侵入した罪人。

魔王復活の首謀者。

そして、帝都中央広場での公開処刑。


どれも、帝国が作り上げた物語だった。


だが、世界はそれを“真実”として受け取っている。


カリムは胸の奥が冷たくなるのを感じながら、

人々の噂話を静かに聞き続けた。


アッシュの名が、

まるで災厄そのもののように語られていく。


やがて、カリムは踵を返した。

帝都へ向かうのではなく、

ポルとレーネが待つ場所へ。


二人のもとへ戻る道のりは、

行きよりもはるかに重かった。


ポルとレーネは、

森の外れで身を潜めていた。

カリムが戻る気配に気づき、

二人は静かに顔を上げる。


カリムは言葉を選ぶこともできず、

ただ事実だけを告げた。


アッシュの名が、

世界に“罪”として広まっていること。

帝国が彼を魔王復活の首謀者と断じたこと。

そして七日後、公開処刑が行われること。


三人に深い沈黙が落ちた。


三人の胸に去来したのは、

怒りでも、悲しみでも、焦りでもなく、

ただ一つの確信だった。


アッシュは、まだ生きている。


そして――

世界は、彼を闇として終わらせようとしている。

そして――世界は、彼を闇として終わらせようとしている。

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