七日後の処刑
帝国城の地下は、夜でも白く照らされていた。
レオンが歩くたび、空気が淡く光を帯びる。
アッシュは光縛に拘束され、
冷たい石床に膝をついていた。
光縛は魔力の流れを完全に固定し、
内部の循環すら止めてしまう。
(……胸が……苦しい……
誰かが……呼んで……
いや……違う……)
アッシュの中で、
“誰か”が今にも形になりそうで、
しかし霧のように掴めない。
──アッシュ。あなたは
声が聞こえた気がした。
だが、思い出せない。
その混乱の中、レオンが静かに立つ。
その姿は、まるで朝日のように柔らかい。
「対象17。
君の状態を確かめよう」
声は穏やかで、優しい。
人を安心させる“英雄の声”そのものだった。
アッシュは顔を上げられない。
胸の奥がざわつき、呼吸が乱れる。
(......俺は……何を……)
レオンはアッシュの胸元に手をかざした。
光が揺れ、アッシュの魔力に触れる。
その瞬間、レオンの瞳がわずかに揺れた。
「……そうか」
レオンは静かに言葉を続けた。
「君の中にいるはずの召喚獣、炎獣イグナ=レクス。
もう消えているね。
残っているのは残骸だけだ」
レオンは悲しむような、
しかしどこか受け入れるような表情で微笑んだ。
「君は……空になってしまったんだね。
光を宿す器ではなくなった。
これでは復活する魔王は倒せない」
アッシュはかすれた声で呟く。
「……俺は……器じゃ……
俺は……誰かを……」
言いかけた瞬間、頭の奥が痛んだ。
──アッシュ。あなたは、生きて。
声が、また聞こえた。
アッシュは頭を押さえ、苦しげにうめく。
レオンはその様子を見て、
優しく、しかし揺るぎない声で言った。
「記憶が揺れているね。
でも……もう思い出す必要はないよ」
アッシュは震える声で言う。
「……俺は……何を……失った……?」
レオンは首を横に振る。
怒りも軽蔑もない。
ただ、光のように静かだった。
「アッシュ。
君は“対象17”。
帝国が光を託した兵器だ。
けれど……光を失った兵器は、もう役目を果たせない」
アッシュの胸が軋む。
レオンは優しく続けた。
「魔王が復活する今、
世界は“光の物語”を必要としている。
だから……君には“闇の役”を担ってもらう。
魔王復活の罪を背負う“闇”としてね」
アッシュは震えながら呟く。
「……俺は……闇じゃ……
俺は……誰かを……守りたくて……」
また頭が痛む。
記憶が、もう少しで形になりそうなのに。
レオンは微笑んだ。
その笑みは、救いのようで、絶望のようだった。
「大丈夫。
君の罪は、世界を一つにするための光になる。
君の処刑は……人々に希望を与えるだろう」
アッシュの瞳が揺れる。
レオンは扉に向かいながら、
振り返らずに告げた。
「七日後、君を処刑する。
光を失った君を、闇として終わらせるために。
魔王を復活させる罪人として」
最後に、静かに言った。
「アッシュ。
君は……もう光ではない」
扉が閉まる。
アッシュは光縛に縛られたまま、
胸の奥の“思い出せない声”に怯えながら、
ただ静かに、深く沈んでいった。




