隠された孤児院の真実
夜の帝都は静寂に包まれていた。
魔導灯の揺れる光が石畳に斑模様を落とす。
巡回兵の足音だけが、冷たい夜の空気を震わせた。
アッシュとカリムは影から影へと移動し、
帝都外れの古い診療所へ辿り着いた。
カリムが小声で告げる。
「巡回は問題ありません。
中に院長が一人でいるはずです」
アッシュは頷き、扉を押し開けた。
古い薬棚と、使い込まれた机。
壁には子ども向けの絵が飾られている。
その中央で、白髪の老人が薬瓶を整理していた。
アッシュを見るなり、
老人の顔が凍りついた。
「……あ……ああ……」
震えが走る。
それは再会の喜びではない。
恐怖そのものだった。
アッシュは無表情のまま言う。
「……院長」
老人は膝をつき、震える声を絞り出した。
「……まさか……生きて……いたのか……
いや……違う……
お前は……もう……」
アッシュの声は冷たかった。
「俺は......わからない。
だから聞きに来た。
俺たちは……何をされた?」
老人はその言葉に、
逃げることを諦めたように目を閉じた。
「……そうか……
なら……話さねばならん……
これは……償いにもならんが……」
カリムは静かに部屋の入口に立ち、
外を警戒しながら耳を傾けた。
老人は震える手で机の引き出しを開け、
古い記録帳を取り出した。
「……私は……帝国軍魔法研究施設の職員だった。
“孤児院”は……その隠れ蓑にすぎん」
アッシュの目が細くなる。
老人は続けた。
「孤児に……召喚獣を宿らせ……
“ソウルベアラー”を作る帝国軍の実験施設だった」
アッシュの拳がわずかに震えた。
老人は涙をこぼしながら言う。
「拒否反応で死んだ子どもには……
“里親が決まった”と嘘をつき……
処理した……」
アッシュの呼吸が止まる。
「成功した子どもは……
実験の記憶を改ざんし......
そのまま帝国軍へ送られ……
生体兵器として……戦場に立たされた」
老人は静かに語り続ける。
「……お前も……エリシアも……
召喚獣を宿し......戦場へ送られた。
......10歳だった......」
アッシュの胸が痛む。
「エリシア......?......誰だ......
俺は......その名前を知っている......」
老人は震える声で確認する。
「エリシアの......記憶がないのか?」
アッシュは首をわずかに振った。
老人の顔から血の気が引いた。
「……そうか……」
老人は目を伏せ、かすれた声で呟いた。
「……あの子は……」
だが、その先を言葉にすることはなかった。
「……いや……」
「……無理もない……あの戦争は……子どもから何もかも奪った……」
戦争が奪ったものの大きさを、アッシュはまだ言葉にできなかった。
ただ胸の奥で、失われた何かが疼き続ける。
その感覚だけが、彼の心を静かに締め付けた。




