真実へ続く夜道
日が沈み、帝国の外壁が闇に沈む頃。
アッシュたちは森の影に身を潜め、カリムの帰還を待っていた。
風が一度だけ揺れた。
アッシュが目を開く。
「……戻ったな」
次の瞬間、カリムが音もなく姿を現した。
外套には土埃ひとつついていない。
「お待たせしました。報告します」
声は落ち着き、簡潔だった。
「まず、ソウルベアラーについて住民に聞きましたが……
誰一人、知りませんでした」
レーネが眉を寄せる。
「……そうですか」
カリムは静かに頷く。
「“最初から存在しなかった”という反応でした。
記録も、噂も、痕跡もありません」
アッシュの胸が冷たくなる。
「……やはり消されたということか」
「はい。意図的に、そして徹底的に」
カリムはアッシュを見た。
「次に……あなたが育った孤児院ですが」
アッシュの指がわずかに震える。
「……どうなっていた?」
「二十年前に火事で焼失しています。
跡地は更地のまま、手が入れられた形跡もありません」
アッシュは目を閉じた。
胸の奥で、少年の声がまた揺れる。
――アッシュ兄……逃げて……
ポルが拳を握りしめる。
「二十年前……アッシュが凍らされた頃と同じ時期か」
カリムは短く頷いた。
「レオンについても確認しました」
アッシュの目が鋭くなる。
「どこにいる」
「帝国軍・近衛兵団長に就いています。
現在は城の上層区画に常駐しています」
レーネが息を呑む。
「……帝国軍の中枢……!」
「はい。一般人はもちろん、兵士でも近づけません」
カリムは最後の報告を告げた。
「孤児院につきまして、院長ですが」
アッシュの視線がカリムに吸い寄せられる。
「……生きています」
空気が止まった。
レーネが驚きに目を見開く。
「本当ですか……!?」
「はい。帝国城下の外れにある、古い診療所で働いています。
名前は変えていません。間違いありません」
アッシュの胸が強く脈打つ。
「……院長が……生きている……」
ポルが息を吐く。
「じゃあ……聞けるな。
アッシュの過去も、ソウルベアラーのことも……全部」
カリムは静かに頷いた。
「ただし」
カリムの声が低くなる。
「診療所は帝国軍の巡回区域にあります。
全員で向かうのは危険です」
レーネがすぐに理解する。
「……アッシュ殿とカリム殿の二人だけ、ということですね」
「はい。
私が道を確保し、アッシュ殿が院長と会う。
それが最も安全です」
ポルは悔しそうに唇を噛む。
「……俺は足手まといか」
カリムは首を横に振る。
「違います。
あなたはアッシュ殿の護衛として、ここで待つべきです。
帝国兵が来れば、レーネ殿と共に迎撃できます」
レーネも頷く。
「ポル殿と共にここで待機します」
ポルはしばらく黙り、
やがて深く息を吐いた。
「……わかった。
アッシュ、絶対に戻ってこいよ」
アッシュは短く頷く。
「必ず戻る。
院長に……聞かなければならないことがある」
カリムが外套を整え、アッシュの横に立つ。
「行きましょう。
夜の巡回が薄くなるのは、今だけです」
アッシュは二刀を確かめ、
闇の中へ踏み出した。




