カリムの単独任務
森を抜けると、サン=レガリア帝国の外壁が視界いっぱいに広がった。
巨大な石壁は空を遮り、魔導灯の光が淡く揺れている。
アッシュは立ち止まり、低く呟く。
「……どうやって入る?」
レーネが城壁を見上げる。
「正面は……危険です。
すぐに拘束されるでしょう」
ポルも腕を組む。
「森で戦った帝国軍は拘束しようとしてきたよな。
荒野で襲ってきた時は殺そうとしてきた。
なんでだ?」
レーネが少し考えて答える。
「......何か状況が変わったのでしょうか」
アッシュは黙って壁を見つめた。
その胸の奥には、まだ少年の声が残っている。
……逃げて……ここに来ちゃ……だめだ……
その時、アッシュの目が鋭く細まった。
「……来る」
風が揺れ、木々の影から一つの影が滑り出る。
「……無事で何よりです」
砂色の外套をまとい、
気配を完全に消したまま現れたのはカリムだった。
ポルが驚いた声を上げる。
「うおっ!いつの間に?」
カリムは淡々と答える。
「先に正門についていたので三人の気配を周囲で探していました」
アッシュは短く頷く。
「よく気配で見つけられたな」
「仲間の気配が分かるのは当然です」
レーネは小さく微笑む。
「カリム殿……本当にすごいですね」
カリムは軽く会釈した。
「状況を伺ってもよろしいですか」
三人はカリムに森道で帝国軍に待ち伏せをされていたこと、帝国に入る方法を考えていたことを話した。
カリムは静かにアッシュを見る。
「……正面は不可能でしょう。
帝国は我々の情報を保持しているとみるのが妥当です」
アッシュは頷く。
「わかっている」
レーネが提案する。
「カリム殿……
あなたならお一人で帝国に入ることは可能ですか?」
カリムは短く考え、
ポルへ視線を向けた。
「……必要な情報を、整理していただけますか」
ポルは真剣な表情で頷き、三つの目的を告げる。
「一つ。
記憶のためにアッシュが育った孤児院がどうなってるか。
誰が残ってて、誰がいなくなったのか」
カリムは静かに頷く。
「承知しました」
「二つ。
ソウルベアラーがどう扱われてるか。
帝国が何をしてるのか」
「確認します」
「三つ。
俺たちを捕えようとしたレオンがどこにいるのか。
今、何をしてるのか」
カリムはわずかに目を細めた。
「……最優先で探ります」
アッシュが口を開く。
「危険だぞ。
帝国は……絶対無理はするなよ」
カリムは静かに首を振る。
「危険は承知の上です。
私が行くのが最適です」
外套を翻し、城壁の影へ向かう。
「夜までには戻ります。
どうか、ここから動かないでください」
アッシュは短く答えた。
「……頼む」
カリムは軽く会釈し、
次の瞬間には影は溶けて消えた。
アッシュは帝国を見つめたまま、
胸の奥に残る少年の声を押し殺すように目を閉じた。
ポルがそっと言う。
「アッシュ……無理すんなよ」
アッシュは静かに答えた。
「……行くしかない。
あの声の意味を……確かめるためにも」
レーネは二人の横に立ち、
帝国の城壁を見上げた。
「……カリム殿が戻るまで、待ちましょう」
三人は夜の訪れを待ちながら、
帝国の影を見つめ続けた。




