消滅の中で届いた声
ガイア=センチネルが崩れ落ちた瞬間、
その身体からは、制御を失った魔力が噴き出していた。
そしてアッシュの頭に、かすれた少年の声が流れ込んだ。
『……アッシュ兄……聞こえる……?』
『……逃げて……ここに来ちゃ……だめだ……』
『……俺……もう……自分が……わからない……』
『……身体が……勝手に……動くんだ……
止めたいのに……止まらない……』
アッシュの視界が揺れ、
胸の奥が締めつけられる。
「……この声……知っている……誰だ!」
少年の声は、苦しげに、それでも必死に続く。
『……ごめん……アッシュ兄……
俺……もう……誰かを傷つける前に……
終わらせてほしかった……』
声は、最後だけ少しだけ穏やかだった。
『……アッシュ兄……
いままで……ありがとう……』
その言葉を最後に、ガイア=センチネルは魔力を放出しきり、完全に消滅した。
森に静寂が戻る。
アッシュはしばらく動けなかった。
レーネが駆け寄り、肩を支える。
「アッシュ殿! しっかり……!」
ポルも血のついた両刃剣を握ったまま、
不安げに覗き込む。
「おい……大丈夫か?」
アッシュはゆっくりと息を整え、
二人に向かって首を振った。
「……大丈夫だ。
黒翼竜の時と……同じで......
思念が流れ込んできた......」
レーネが目を見開く。
「思念……ですか?」
アッシュは短く頷いた。
「……ああ。
あいつが……声を……」
言葉が喉で詰まる。
胸の奥がまだ痛む。
ポルがそっと問いかける。
「知ってる声なのか……?」
アッシュはしばらく沈黙し、
握った拳を震わせながら答えた。
「……ああ。
だが……誰だかわからない」
レーネは息を呑み、
アッシュの背にそっと手を添えた。
「……思い出せなくても構いません。
今は……歩けますか?」
アッシュはゆっくりと立ち上がる。
足元はまだふらつくが、
意識ははっきりしている。
「……行ける。
ここに長くいるのは危険だ。
帝国兵が集まってくるかもしれない」
ポルが周囲を警戒しながら頷く。
「よし……じゃあ先を急ぐぞ。
アッシュ、無理すんなよ。
歩けなくなったら言え」
アッシュは小さく笑った。
「……お前に言われるとはな」
ポルは照れ隠しのように鼻を鳴らす。
「うるせぇ。
足ぐらい持ってやるよ」
レーネも微笑み、
三人は再び森の奥へと歩き出した。
だがアッシュの胸の奥では、
あの少年の声がまだ消えずに残っていた。
――アッシュ兄……ありがとう……
その言葉だけが、
痛みと共に、静かに響き続けていた。




