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関所の避けて

街道を進むにつれ、旅人の数はさらに増えていった。

商隊の車輪の音、冒険者たちの笑い声、魔導商人の浮遊荷物が風を切る音。

朝の光が石畳に反射し、まるで祭りの行列のような賑わいが続く。


そんな喧騒の中、アッシュがふと足を止めた。


「……見えたな。関所だ」


遠く、街道の先に巨大な石造りの門がそびえていた。

帝国の紋章が掲げられ、武装した兵士たちが行き交う旅人を厳しく監視している。

門の前には長い列ができ、検問を待つ商人や冒険者たちがざわついていた。


ポルが眉をひそめる。


「……関所は通れないな。

 俺たちの顔が割れてるのは確実だろう」


レーネも不安げに門を見つめる。


「帝国軍は規律が厳しいと聞きます。

 破れば罰則もあるとか。

 見逃してくれることはないでしょう……」


アッシュは静かに頷いた。


「正面から行くのは得策じゃない。

 森に入って、関所を迂回する」


街道の右手には深い森が広がっていた。

旅人の流れから外れるように、アッシュはそちらへ歩き出す。


ポルが肩をすくめながらついていく。


「まぁ、森の方が落ち着くしな。

 街道は賑やかすぎて、逆に疲れるぜ」


レーネは小さく笑い、二人の後を追った。


「森を抜ければ、小さな村があるはずです。

 そこで一泊して……帝国の情勢を聞きましょう」


アッシュは森の入口で一度だけ振り返り、

関所の巨大な門と、そこに並ぶ人々を見つめた。


三人は街道の喧騒を背に、静かな森へと足を踏み入れた。


森の中は街道の喧騒が嘘のように静かだった。

鳥の声と風の音だけが響き、三人の足音が落ち葉を踏むたびに柔らかく沈む。


アッシュは時折、背後を振り返った。

帝国軍に顔を覚えられている以上、

街道を避けたとはいえ油断はできない。


ポルが小声で言う。


「……気配はねぇな。

 だが、森の中なら軍が潜んでてもおかしくねぇ」


レーネも頷く。


「帝国軍は森の監視もしていますから……。

 街道よりは安全ですが、完全ではありません」


アッシュは短く答えた。


「急ごう。村まではそう遠くない」


森の木々が徐々に開け、視界が広がる。

その先に、小さな集落が見えた。


村は十数軒ほどの家が寄り添うように建ち、

中央には井戸と小さな広場がある。

街道から外れているため旅人は少なく、

代わりに農具を持った村人たちがのんびりと行き交っていた。


三人が村に入ると、

年配の村人がこちらに気づき、軽く会釈してくる。


「おや、旅のお方かい。

 こんな森道を通ってくるとは珍しいねぇ」


ポルが笑って答える。


「関所が混んでてな。

 森を抜けた方が早いと思ったんだ」


村人は「ああ、なるほど」と頷き、

三人を村の宿へ案内してくれた。


宿は質素だが清潔で、

暖炉の火が心地よい温かさを放っていた。


宿の主人は気さくな中年の女性で、

三人が旅人だと知ると、湯気の立つ茶を出してくれた。


「帝国へ向かうのかい?

 最近は旅人が多いねぇ。

 商人も冒険者も、みんな帝国を目指してるよ」


レーネが丁寧に尋ねる。


「帝国は……今、安定しているのですか?」


主人は「もちろんさ」と笑った。


「帝国はどこよりも安定してるよ。

 軍は強いし、商人は儲かるし……

 冒険者も仕事に困らない」


アッシュは静かに聞きながら、

その“完璧すぎる答え”にわずかな違和感を覚えた。


ポルが茶をすすりながら尋ねる。


「でもよ、街道で軍と冒険者の揉め事が増えてるって聞いたぜ?」


主人は少しだけ表情を曇らせた。


「……まぁ、あるにはあるね。

 軍の規律が厳しすぎるんだよ。

 冒険者は自由人が多いから、そりゃ衝突もするさ」


レーネが眉を寄せる。


「深刻な問題には……?」


「いやいや、そんな大げさなもんじゃないよ。

 帝国は強い。

 あたしたち庶民には、何の不安もないさ」


その言葉は明るいが、

どこか“言い聞かせるような響き”があった。


アッシュはその微妙な空気を感じ取り、

静かに茶を置いた。


「……帝国は、光が強いほど影も濃くなる。

 そういうことか」


軍による力での弾圧。


主人は意味を測りかねたように首をかしげたが、

それ以上は何も言わなかった。


夜になると村は静まり返り、

遠くで犬の吠える声が聞こえるだけだった。


アッシュは宿の窓から外を眺め、

帝国の方向に目を細めた。

レーネは不安げに、

ポルは警戒心を隠さずに。


三人はそれぞれの思いを胸に、

明日の帝国入りに備えて眠りについた。

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