静かな夜、分かたれる道
外環の夜は静かだった。
世界樹神殿の緊張とは違い、街の灯りは温かく、風は穏やかに吹いている。
アッシュたちは、ミズナギ宿へ戻ってきた。
ポポはすでにセレフィアと共に内環統治院へ向かっており、
この場にいるのはアッシュ、ポル、レーネ、そしてカリムだけだった。
食堂に入ると、ポルが椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
「……やっと座れたな。
世界樹の深部は、もう二度と行きたくねぇ」
レーネは手を組み、震えを抑えるように胸元を押さえた。
「世界樹の雫……奪われてしまいましたね……
あれがどれほどの意味を持つのか……考えるだけで怖いです」
アッシュは壁にもたれ、静かに言った。
「……明日、帝国へ向かう。
ソウルベアラーについて調べたい」
レーネが顔を上げる。
「アッシュ殿……本当に行くんですか?」
「......行く。
ソウルベアラーがなぜ全滅したのか知りたい」
ポルは目線を下げて言う。
「......わかった。
どんな真実だろうと受け止めよう......」
その時、カリムが静かに口を開いた。
「……私は一度、ゼル=アラドに戻ります」
アッシュとレーネが同時に視線を向ける。
ポルが眉をひそめた。
「戻る? なんでだ?」
カリムは淡々と答えた。
「アエロスの襲撃、世界樹の雫の奪取、
魔王復活が現実味を帯びたことを
ザラフ族長に伝えなければなりません。
エルフェリアがゼル=アラドに伝えてくれるかわかりませんので」
レーネは不安げに言う。
「カリム殿……一人で大丈夫ですか?」
カリムは微笑んだ。
「心配はいりません。
砂漠の斥候は、一人で動くのが本来の姿です」
ポルがうなずく。
「……そうだな。報告はお前にしかできねぇ」
カリムは続けた。
「報告を終えたら、すぐに帝国へ向かいます」
アッシュは短く頷いた。
「わかった。帝国で落ち合おう」
レーネは小さく呟いた。
「……ポポさん、大丈夫でしょうか」
ポルは答える。
「内通者の調査と、各国への連絡……
あいつにしかできないことがある。
あいつ、やる時はやるからな」
アッシュは窓の外を見つめた。
遠くで世界樹の光が揺れている。
(帝国……
そこに、俺の過去がある)
胸の奥が静かに軋んだ。
朝日が外環の街を照らす頃、
アッシュ、ポル、レーネは宿を出た。
カリムはすでにゼル=アラドに向かった。
ポルが両刃剣を背負い直し、言った。
「よし……行くか。
帝国に乗り込むんだ。
いつ襲われてもおかしくないからな」
レーネは深呼吸し、アッシュの隣に立つ。
「アッシュ殿、帝国のどんな攻撃からもあなたを守ります。
あなたを一人にはしません」
アッシュは短く頷いた。
「……頼りにしてる」
三人は帝国へ続く街道へ足を踏み出した。
世界樹の影が遠ざかり、
新たな旅路が始まる。




