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帝国に眠る答え

世界樹深部から地上へ戻る道は、異様なほど静かだった。

魔族の気配は消え、ただ世界樹の脈動だけが弱々しく響いている。


ポポは拳を握りしめ、唇を噛んでいた。

ポルは血を拭いながら前を歩き、レーネとカリムは沈黙のまま後ろを守る。

アッシュたちは神殿へと向かった。


空気が澄み、光が粒となって漂い始める。

世界樹の根が白い神殿を抱くように広がっていた。


淡い緑光が満ちる大広間。

銀髪の巫女セレフィア=ウィンドレルが、静かに立っていた。


彼女は振り返り、アッシュたちを一瞥する。


「……戻ったのね。

 その顔を見る限り、調査が成功したとは言い難いようだけれど?」


ポポが震える声で言った。


「……セレフィア。

 世界樹の雫が……奪われた」


セレフィアの瞳が細くなる。


「……誰に?」


アッシュが答える。


「魔王の新たな四天王アエロス。

 風を操る魔族だ。

 魔王を復活させる気らしい」


セレフィアは短く息を吐いた。


「そう。

 あなたたちが敵う相手ではなかった、ということね」


ポポは悔しげに叫ぶ。


「違う! 僕たちは古代魔法で追い詰めた!

 でも……逃げられた……!」


セレフィアは冷淡に切り捨てた。


「泣き言は不要よ、ポポ。

 結果として雫は奪われた。

 それが事実であり、あなたの責任。」


ポポは唇を噛み、拳を震わせる。


ポルが前に出る。


「セレフィア。

 アエロスは言っていた。

 “お前たちの国の者が鍵を開けた”と」


セレフィアの表情がわずかに揺れた。


「……内通者、というわけね」


セレフィアは断定した。


「世界樹の地下に行くための鍵を持つのは

 内環統治院か、私だけよ。

 どちらにせよ、重大な裏切りね」


その声は冷たく、怒りすら感じさせない“裁断”だった。


アッシュは一歩前に出た。


「……セレフィア。

 ひとつ、確認したい」


セレフィアはアッシュを見据える。


「何かしら?」


「あなたは

 “ソウルベアラーは二十年前に全滅した”

 と言った。

 本当に……そうなのか?」


セレフィアは一瞬だけ沈黙し、

その後、淡々と答えた。


「記録上は、そうなっているわ。

 私が知る限り、全員死亡したと報告されている」


アッシュは眉をひそめる。


「……その報告はどこで?」


セレフィアは静かに答えた。


「レガリア帝国よ。

 ソウルベアラーを管理していたのは帝国軍。

 真実を知りたいなら……帝国に行くことね」


アッシュは拳を握りしめた。


セレフィアはポポを見ると、冷たく告げた。


「私は内環統治院へ向かう。

 内通者の調査と、各国への緊急連絡が必要だから」


ポポが頷く。


「僕も行く。

 報告しなきゃいけないことが山ほどある」


セレフィアはアッシュに視線を向けた。


「あなたは……どうするの?」


アッシュは静かに答えた。


「帝国へ行く。

 ソウルベアラーについて確かめたい」


セレフィアはわずかに目を細めた。


「そう。

 ならば行きなさい。

 これだけは伝えておくけど帝国はあなたを

 受け入れる気はないわ。

 十分気をつけることね」


ポルはポポの前に立ち、ほんの一瞬だけ迷うように視線を落とした。

それでも、幼い頃から何度もそうしてきたように、まっすぐポポを見て言った。


「……ありがとな」


その言葉に、ポポの肩がわずかに震えた。

三十年、胸の奥に沈めてきた後悔が、たった一言で掬い上げられたようだった。


ポポは唇を噛み、目を伏せたまま小さく息を吸う。

そして、絞り出すように答えた。


「……遅くなって、ごめん」


二人の間に、短い沈黙が落ちる。

けれどその沈黙は、かつての断絶ではなく、ようやく繋がった絆の重さだった。


レーネはそっと目を伏せ、カリムは静かに視線を逸らす。

ポルとポポは僅かだが確かに胸の奥で何かがほどけていくのを感じていた。


ポポとセレフィアは内環統治院へ向かい、

各国への緊急連絡と内通者の調査に入る。


アッシュは二刀を握り、静かに息を吐いた。


(帝国……

 そこに、俺の過去がある)


世界樹の影が揺れ、

新たな旅路が始まろうとしていた。

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