表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/103

読まれる剣、読ませぬ剣

アーリマンと魔族の群れが暴れ始めた空洞の中央で、

アッシュとアエロスだけが、まるで別の世界にいるように静かだった。


アエロスは微動だにせず、ただアッシュを見つめていた。

翡翠色の瞳は冷たく、感情の揺れが一切ない。


「……動かないのか」


アッシュが低く呟く。

二刀を抜く音だけが、世界樹の根の間に響いた。


アエロスは淡々と答える。


「お前の動きを“読む”必要がある。

 風は、すべてを教えてくれる」


次の瞬間、空気が震えた。


アッシュは踏み込み、最短距離で間合いを詰める。

黒鉄の重い刃が横薙ぎに走り、

赤い細身の刃がその後を追う。


だがアエロスの姿は、風に溶けるように消えた。


「……遅い」


背後から声がした。

アッシュは反射だけで身を沈める。


――風刃。


真空の刃が頭上を通り過ぎ、

世界樹の根を浅く切り裂いた。


アッシュは振り返りざまに二刀を交差させ、

アエロスの喉元を狙う。


だがアエロスは一歩も動かず、

ただ風の壁を展開して受け流した。


「内部から感じた魔力を使わないのか」


「……ここを燃やすわけにはいかない」


アエロスはわずかに目を細めた。


「制限された状態で戦うのか。

 愚かだが……興味深い」


アッシュは答えず、再び踏み込む。

二刀が閃き、最小動作でアエロスの急所を狙う。


アエロスは風の流れを読むように、

必要最小限の動きでそれを避け続けた。


「無駄がない。

 だが……足りない」


アエロスが手を払うと、

突風がアッシュの身体を弾き飛ばした。


アッシュは空中で体勢を整え、

根の上に着地する。


(……距離を取られると厄介だ。)


アエロスは風を纏い、

まるで空気そのものになったかのように揺らいでいた。


「近づけないなら、どうする」


挑発ではない。

ただの事実確認。


アッシュは静かに息を吐き、

二刀を構え直した。


次の瞬間、アッシュの姿が消えた。


アエロスの瞳がわずかに揺れる。


「……速い」


アッシュは地を蹴った瞬間に、

風の流れを読むように軌道を変え、

アエロスの死角へ滑り込んでいた。


二刀が交差し、

アエロスの胸元へ迫る。


だが――


「読める」


アエロスの身体が風に溶け、

アッシュの刃は空を切った。


背後から突風が叩きつけられる。

アッシュは受け身を取りながら滑り、

根の上で踏みとどまった。


アエロスは淡々と告げる。


「お前の動きは美しい。

 だが、風は止まらない」


アッシュは息を整え、

アエロスを見据えた。


(……読まれている。

 なら――読ませなければいい。)


アッシュは二刀を下げ、

わずかに姿勢を崩した。


アエロスの瞳が細くなる。


「……何をする」


アッシュは答えない。

ただ、呼吸を乱し、

重心をわずかにずらし、

“意図のない動き”を作り出す。


本能だけで動く剣士の、

無意識の揺らぎ。


アエロスの風が、わずかに乱れた。


「……読めない?」


アエロスが初めて、ほんの少しだけ声を低くした。


アッシュはその瞬間を逃さなかった。


地を蹴る。

風を裂く。

二刀が閃く。


アエロスは風壁を展開するが――

アッシュの刃はその“隙間”を正確に突き抜けた。


アエロスの頬に、細い傷が走る。


「……ほう」


アエロスは初めて、興味を示したように目を細めた。


「炎を使わずに、ここまで届くか」


アッシュは静かに構え直す。


「……まだ終わっていない」


アエロスは風を纏い、

空気が震え始める。


「では……次は、こちらの番だ」


世界樹の根が揺れ、

空洞全体が風の圧力で軋んだ。


アッシュは二刀を握り直し、

静かに息を吐いた。


――本能が告げていた。

(ここからが、本当の戦いだ。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ