詠唱を守る者たち
ポルが素早く前に出て、四人に短く告げた。
「ポポ!おまえの魔法でこいつらをぶっ倒すぞ!
それまで絶対に守り切る」
レーネが息を呑む。
「ポポ殿の魔法......威力が計り知れませんね」
ポポは頷いた。
「詠唱に時間がかかる!止められたら終わりだ」
ポルはその肩を掴み、強く言い切った。
「止めさせねぇ。お前は魔法に集中しろ。
全部ぶち抜け」
ポポの喉が震え、かすかに返事が漏れた。
「……わかった」
カリムが弓を構え、静かに告げる。
「……敵は複数。飛行型が一体。
後方は私が見ます」
レーネはフロストエッジを構えて、前へ出た。
「前は任せてください。絶対に通しません!」
その瞬間、アエロスがため息のように名を呼んだ。
「……アーリマン全員殺せ」
下級魔族の唸り声。
中級魔族の濁った言葉。
世界樹の根が震えるほどの圧。
ポルが叫ぶ。
「来るぞッ!」
「……っ、受け止めます!アイスシールド!」
レーネは魔力を集中し、氷盾を複数層展開した。
アーリマンの魔眼が赤く光る。
次の瞬間、破壊光線が放たれた。
轟音。
氷盾が数層砕け散り、冷気と熱が混ざった衝撃がレーネの腕を焼く。
「くっ……まだ……!」
彼女は歯を食いしばり、すぐに次の氷盾を地面に隆起した。
下級魔族が突進してくる。
「通しません……!アイスウォール!」
爪が氷を裂き、火花が散った。
「下から行く!」
ポルは地を蹴り、滑るように下級魔族の足元へ潜り込む。
回転。
両刃剣が円を描き、脚をまとめて断ち切った。
悲鳴。
血飛沫。
だが止まらない。
「次ッ!」
中級魔族が吠える。 「……コロス……!」
ポルはすでに死角にいた。
回転剣術が胴を裂き、黒い血が飛ぶ。
「邪魔だッ!」
カリムは後方から弓を構え、わずかに息を整えた。
「……左翼を狙います」
矢は風を裂く音すらなく飛び、アーリマンの翼膜を貫いた。
「ギィィィィッ!」
巨体が揺れ、バランスを失う。
カリムは次の矢を番えながら、落ち着いた声で告げた。
「下級が八体、中級が三体。アーリマンは飛行不能です。まもなく落下します」
レーネは氷壁をドーム状に展開し、落ちてくる巨体を受け止めた。
足が沈む。
腕が震える。
「っ……重い……!」
カリムは視線を前に向けたまま、短く言う。
「後方は私が守ります。詠唱を続けてください、ポポ殿」
ポポは震える指を組み、声を絞り出す。
「――“古の理よ……時を遡り……力を紡げ……”
“世界樹の根源よ……我が声に応えよ……”」
魔力が空気を震わせ、世界樹の根が脈動する。
レーネが叫ぶ。
「ポポ殿、あとどれくらいですか!」
「……あと半分……! もう少し頑張ってくれ……!」
ポルが血を拭う暇もなく叫ぶ。
「時間稼げッ! 絶対に止めさせるな!」
三人の呼吸は荒く、汗と血が混ざり、足元は滑る。
それでも前に出る。
ポポの詠唱を守るためだけに。
世界樹の深部は、戦場の音で満たされていた。




