内環の影
世界樹の根が絡み合う通路は、外界とは別の世界のように静まり返っていた。
淡い緑光が脈打ち、空気は澄んでいるのに、どこか冷たい。
アッシュたちは慎重に進んでいた。
その途中、カリムが静かに報告する。
「……気配が一つ。動きはありません。
ですが……静かすぎます。」
ポポが息を呑む。
「魔力の揺らぎは……この先だ。」
通路の先が開け、広い空洞に出た。
そこに――ただ一人、魔族が立っていた。
長身で細身。
銀緑色の髪が風に揺れ、翡翠色の瞳は氷のように冷たい。
人間に近い姿だが、背中には漆黒の翼と額には角が二本ある。
魔族は振り返り、アッシュたちを見た。
「……邪魔をするな」
その声は静かで、感情が欠けていた。
ポポが警戒しながら叫ぶ。
「お前……何者だ!」
男は淡々と名乗る。
「我は魔王アーク=ノクティス様の新たな四天王。
万象の風を統べし者、アエロス=ヴァルグリム」
レーネが息を呑む。
「新たな四天王……!」
アエロスは一歩も動かず、ただ事実を述べるように続けた。
「世界樹の雫をいただきに来た。
アーク様復活のために必要だ。」
ポポは震える声で反論する。
「結界は……どうやって……!」
アエロスはわずかに首を傾けた。
「……お前たちの国の者が鍵を開けた。
それだけだ。」
ポポは言葉を失い、レーネが息を呑む。
カリムは静かに一歩前に出て、低く告げた。
「……内部協力者。
厄介ですね」
ポポが俯きながら呟く。
「......鍵は世界樹の巫女であるセレフィアが一本。
そして内環統治院が一本持っている......」
アエロスの視線がアッシュに向く。
「……その魔力。
興味深い」
アッシュは息を呑む。
アエロスの瞳は、まるで“内部”を覗き込むように深かった。
アエロスは静かに手を上げる。
「アーリマン......こい」
空気が震え、風が渦を巻く。
黒い魔法陣が根の間に広がり、そこから巨大な影が姿を現した。
――アーリマン。
巨大な単眼。
蝙蝠のような翼。
禍々しい魔力をまとった魔物。
さらにアエロスは淡々と続ける。
「使い魔達、出ろ」
空間が裂け、複数の魔族が姿を現す。
二本の角、大きな翼、黒い皮膚、異形の四肢。
下級魔族は唸り声を上げ、
中級魔族は片言で「……コロス……」と呟く。
アエロスは一歩も動かず、ただ命じた。
「排除しろ」
カリムが静かに弓を構える。
「……来ます
戦闘準備を」
アッシュたちは武器を構えた。
世界樹の深部で、
四天王アエロスとの戦いが始まろうとしていた




