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内環の兆し

朝の光が街を照らし始めた頃、

ミズナギ宿の前には、ひとりの影が静かに立っていた。


ポポだった。


昨日の涙の跡はもうない。

ギルドマスターとしての顔に戻っていたが、

その目の奥には、まだ揺れるものが残っていた。


ポポは四人に向き直り、深く頭を下げた。

「……頼みたいことがある。

 内環で、不穏な魔力の揺らぎが続いている。

 調査に協力してほしい」


ポルは腕を組んだまま言う。

「内環の問題なら、お前らエルフェリア王国軍でやればいいだろ」


ポポは首を振った。

「エルフェリア王国軍はもう力を持っていない。

 魔法研究が主だ。

 それに普通の揺らぎじゃない。

 ……魔族の気配が混ざっている」


アッシュの表情が変わる。

「魔族……?」


レーネが不安そうに言う。

「でも、魔族は……魔王が倒れてからは……」


ポポは静かに言った。

「だからこそ、だ。

 魔王が倒れた“はず”なのに……魔族の気配があるのは何かある」


ポルは短く息を吐いた。

「……行くぞ。

 どうせ放っておける話じゃない」


ポポの目がわずかに揺れた。

「……ありがとう、ポル」


外環の喧騒を抜けると、空気がひんやりと変わった。

人の声が遠のき、代わりに整った石畳の足音だけが静かに響く。


中環は、外環とはまるで別の街だった。

建物は白と緑を基調とした落ち着いた色合いで統一され、

道沿いには魔力を帯びた街灯が規則正しく並んでいる。

外環の雑多な活気とは違い、ここには“選ばれた者だけが暮らす静けさ”があった。


レーネが小声でつぶやく。

「……人が少ないですね」


ポポが前を歩きながら答える。

「中環は内環の住民と、各国の使節団の居住区だ。

 冒険者や商人は基本的に入れない。

 だから、昼間でもこんなものだよ」


カリムは周囲を観察しながら歩く。

「建物の配置が整いすぎている……軍の駐屯地のようだな」


「治安維持のためだよ」

ポポは淡々と言う。


「内環には魔法研究施設や魔法学校がある。

 外からの刺激や混乱を極力排除するために、中環が“緩衝地帯”になっている」


アッシュは静かに周囲を見渡した。

外環の多種多様な人々の姿が嘘のように、

ここではすれ違う人々の衣服も、歩き方も、どこか均質だ。


「……なんか、息が詰まる場所だな」

アッシュが漏らすと、ポルが短く鼻を鳴らした。


「昔からこうだ。

 外環の連中は“自由すぎる”って嫌われてる。

 内環の連中は“気取ってる”って嫌われてる。

 どっちもどっちだ」


ポポが苦笑する。

「否定はしないよ。

 でも、内環の魔法使いたちは研究に没頭するからね。

 静けさは必要なんだ」


道の先に、淡く光る巨大な門が見えてきた。

内環へと続く境界だ。


レーネが息を呑む。

「……あれが、内環の門……」


ポポは立ち止まり、四人の方へ向き直った。

「ここから先は、許可証がないと入れない。

 でも今回は、正式に通してある。

 魔族の気配の調査――頼むよ」


ポルは短くうなずき、アッシュたちも続く。


静寂の中、五人は光の門へと歩みを進めた。

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