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語られる真実

ミズナギ宿は、水路に面した木造の宿だった。

外環らしく、建物の下を水が流れ、窓からは森の香りが入ってくる。


四人は食堂に案内され、木のテーブルに腰を下ろした。


料理が次々と運ばれてくる。


世界樹の根元で育った甘い果実のサラダ

香草を練り込んだパン

水路で獲れた白身魚の蒸し焼き

森の野菜を煮込んだスープ


レーネが目を輝かせる。

「……すごい……全部、魔力の香りがします……!」


アッシュは魚を一口食べて、思わず目を見開いた。

「……悪くない」


カリムも静かに頷く。

「素材の魔力が強い。身体が軽くなりますね」


ポルは黙ってパンをちぎり、口に運んだ。

懐かしい味がした。


レーネがそっと尋ねる。

「ポル殿……大丈夫ですか?」


ポルは短く答えた。

「……ああ。問題ない」


しかし、その表情はどこか遠くを見ていた。


食事を終え、温かいお茶が運ばれてくる。

外環の夜は静かで、水路の音だけが響いていた。


アッシュが口を開く。

「……さっきのギルドでのことだが」


ポルは視線を落としたまま、答えなかった。


レーネが小さく言う。

「ポル殿……あの人、知り合いなんですよね?」


ポルはしばらく沈黙した後、ようやく口を開いた。


「……ポポ=ミリオン。

 二十年前に魔王を倒した勇者パーティの一人。

 そして同じ孤児院で育った……幼馴染だ。

 俺たちはエルフェリア王国軍に所属していた」


ポルは続けた。

「ポポは……魔法部隊だった。

 俺たち前衛部隊が時間を稼ぎ、魔法部隊が広範囲大魔法で殲滅する──

 それが作戦だった」


カリムが静かに息を呑む。

「……しかし、何かが起きたのですね」


ポルはお茶を置き、短く答えた。


「魔法部隊は……撤退した。

 俺たちを置き去りにして。

 エルフェリアにとって大切なのは優秀な魔法部隊で俺たち前衛部隊は捨て駒だったんだ」


レーネが息を呑む。

「そんな……」


ポルは淡々と言った。

「仲間はほとんど死んだ。

 俺も死にかけた。

 ……お前が帝国軍から派遣されていなければ、全滅していた」


アッシュは目を伏せた。

「……......」


ポルは続ける。

「ポポは……命令に従っただけだ。

 頭ではわかっている。

 だが……あの時のことは、簡単に忘れられない」


レーネがそっと言う。

「……だから、あんなに……」


ポルは小さく息を吐いた。

「……それがきっかけになった」


レーネが首を傾げる。

「きっかけ……?」


ポルは静かに続けた。


「なんとか生き延びた後……俺はエルフェリア王国軍を辞めた。

 “撤退の原因は前衛の不手際だ”と、責任を押し付けられたんだ」


カリムが眉を寄せる。

「……理不尽ですね」


「理不尽だが……珍しい話でもない」

ポルは淡々と続けた。


「エルフェリアでの任務が終わったアッシュと共に帝国に渡り、帝国軍に入った。

 お前と同じ部隊で……もう一度、戦うことを選んだ」


レーネはそっと胸に手を当てた。

「……だから、アッシュ殿と……」


「そうだ」

ポルは頷いた。


「俺はエルフェリアを捨てた。

 いや……エルフェリアに捨てられたのかもしれない。

 だからこそ──今日、ポポと会っても……どう接していいかわからなかった」


アッシュはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。


「……ポル。

 お前がどうしたいか……それだけでいい」


ポルはアッシュを見た。

その目には、昔と変わらない真っ直ぐさがあった。


ポルは小さく笑った。

「……そうだな。

 今は……飯を食って、寝るだけだ」


レーネが安心したように微笑む。

カリムも静かに頷いた。


外環の夜は深まり、

世界樹の葉が風に乗って、静かに舞い落ちていた。

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