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再会の距離、心の距離

冒険者ギルドの扉を押し開けた瞬間、

四人は思わず足を止めた。


中は、まるで祭りのような喧騒だった。


ポポル族の若者たちが依頼掲示板の前で口論し、

エルフ族の魔法使いが光の球を浮かべて素材を鑑定し、

冒険者が大声で笑いながら酒を飲んでいる。


水路のせせらぎが建物の下を流れ、

木の床を踏む音、魔法の音、笑い声が混ざり合っていた。


レーネが目を丸くする。

「……すごい……こんなに人が……!」


アッシュも驚いたように周囲を見渡した。

「エルフェリアにこんなに冒険者がいるのか」


ポルは少しだけ目を細めた。

「……変わったな。俺がいた頃は、こんな光景はなかった」


レーネが尋ねる。

「昔はどうだったんですか?」


ポルは短く答えた。

「……外環にいるってだけで馬鹿にされていた」


それ以上、何も語らなかった。


その時だった。


ギルドの奥から、

ふっと空気が震えるような魔力の波が走った。


レーネが驚いて振り向く。

「……すごい魔力……!」


カリムが目を細める。

「……強い。この気配はザラフ族長に匹敵します」


アッシュはポルを見る。


ポルは、まるで心臓を掴まれたように立ち尽くしていた。

表情が固まり、視線が一点に釘付けになる。


アッシュが声をかける。

「ポル……?」


ポルは答えなかった。

ただ、ギルドの奥をじっと見つめていた。


ギルドの奥から、一人のポポル族の男が姿を現した。


淡い緑のローブ。

魔力の光を纏うような気配。

歩くたびに、周囲の空気がわずかに揺れる。


男は周囲の冒険者に軽く会釈しながら歩いていたが、

ふと顔を上げ──


ポルを見た。


その瞬間、男の目が大きく見開かれた。


震える声が漏れる。

「……ポル……?」


ギルドのざわめきが、ゆっくりと静まっていく。


ポルは動けなかった。

ただ、その名を呼ばれたまま、立ち尽くしていた。


ギルドの奥から現れたポポル族の男は、

ポルを見た瞬間、まるで世界が止まったように立ち尽くした。


淡い緑のローブ。

魔力の光を纏う気配。

そして──ギルドマスターの証である紋章。

二十年前、魔王を倒した勇者パーティ〈五光の勇団〉の一人

ポポ=ミリオンだった。


ポポは震える声で名前を呼んだ。

「……ポル……? ポルなのか……?」


ポルは軽く片手を上げただけだった。

「......久しぶりだな」


そのあっさりした態度に、ポポの目が大きく揺れる。


ポポは一歩、二歩と近づき、

胸の前で手を握りしめたまま、声を震わせた。

「帰ってきてくれたんだな……!」


ポルは肩をすくめた。

「......旅の途中で寄っただけだ」


ポポの目に涙が浮かぶ。

三十年分の後悔と安堵が一気に溢れ出したようだった。


ポポは涙を拭いもせず、ポルの腕を掴んだ。

「ポル……! 話したいことが……山ほど……!」


ポルはその手を軽く振り払った。

「悪いが、今は宿を探してる」


ポポは一瞬だけ固まった。

だがすぐに、ギルドマスターの顔に戻る。


「……そ、そうか……! 宿なら……外環の水路沿いに“ミズナギ宿”がある。

 清潔で、食事も良くて……あ、いや、他にも──」


ポルが遮る。

「一番近いところでいい」


ポポは胸に手を当て、深く頷いた。

「……わかった。案内は……必要か?」


ポルは首を横に振る。

「場所だけ聞ければ十分だ」


ポポは寂しそうに笑った。

「……そうか。ポル……本当に……帰ってきてくれて……ありがとう」


ポルは視線を逸らし、短く答えた。

「……じゃあな、ポポ」


アッシュたちが後ろで静かに見守る中、

ポルは踵を返し、ギルドを出た。


ポポはその背中を、

まるで三十年前の少年を見るような目で見送っていた。


---


外に出ると、森の風が頬を撫でた。


アッシュが横に並ぶ。

「……いいのか、あれで」


ポルは短く答えた。

「今は……あれでいい」


レーネが小さく呟く。

「ポル殿……」


カリムは静かに言った。

「宿へ向かいましょう」


四人は水路沿いの道を歩き、

“ミズナギ宿”へと向かった。

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