暗黒
落ちている、という感覚は、いつの間にか消えていた。
気付いたときには、二人は硬い地面の上に立っていた。
空がなかった。正確には、空にあたるべき場所が、一面の暗黒だった。星も月もない。ただ黒い雲だけが低く垂れ込め、その腹の中で、時折、音もなく雷が走る。
遠くに、山脈が見えた。ギザギザとした、生き物の顎のような稜線だった。
足元は、細い一本道。
両脇は、底の見えない谷だった。
その谷底から、風に混じって、何かの声が届いてくる。低く、長く、途切れない。
うめき声のようだった。
「…………」
ラオは、何も言わなかった。
いつもの気だるさが完全に消えた目で、一度だけ周囲を見渡す。
届かない。
「……つながらないな」
「え?」
「虹たちのほう」
エリイの顔から、さっと血の気が引いた。
「あの子たちは今、誰にも止められない!」
「・・・・」
ラオは、意識を切り替えた。
「……行こう」
「ぎゃぁ~」
「うるさい」
「わ~」
「黙れ」
「わぁ~ん」
「泣くな」
「腹減った~」
「関係ねぇだろ」
ラオ君のキャラがついに壊れた。
「行くぞ」
変わっていた。
ラオが歩き出す。エリイは、一歩も動けなかった。
細い道。両脇の谷。谷底のうめき声。どう考えても、進んだ先に待っているものが良いものであるはずがない。
「ほら。じゃあ行くぞ」
「一歩でも進んだら終わる感じぃ~」
ラオは、そっちを見なかった。
「そっちじゃない」
「え」
顔を上げると、ラオは道を外れていた。
ラオが岩に手をかける。
ごとり、と軽々に持ち上げた。
岩の下から、光が漏れた。
まっすぐな階段が下へ伸びていた。
その入口に、人が立っていた。
つなぎ服だった。それも、やたらと洒落たデザインの。腰で締めたベルト、足元は編み上げのブーツ。頭には、斜めにかぶったベレー帽。
若い女だった。
女は、空を見なかった。雷も、谷も、うめき声も、まるで最初から存在しないかのように、手元の板に何かを書き込んでいる。
そして、顔も上げずに言った。
「シートベルトを締めて、荷物は落ちないように下の網にしまってね」




