宴会
「ひぃぃぃぃ——!!」
少女の悲鳴が響いた瞬間、世界が止まった。
崖へ踏み出した兵士も、どよめく群衆も、吹き抜ける風も、すべてが静止する。ただ一人、少女だけが動けた。
「……あれ?」
恐る恐る周囲を見回した直後、空中に波紋のような光が広がり、黒い外套の少年が現れる。いかにも面倒事に巻き込まれ慣れている気だるそうな目。
「ラオくん!」
顔を輝かせる少女を見下ろし、少年――ラオは言った。
「……うまくできないね。いつも」
「どうしよぉぉぉぉ!! 今度こそ外次元行きだぁぁぁ!!」
「落ち着け」
「落ち着けない!」
崖へ飛び込もうとする兵士たちと、跪く何千もの人々。どう見ても異常な光景に、ラオは額を押さえた。
「話を整理しよう。敵を倒した」
「倒した」
「世界を救った」
「救った」
「勝手に陶酔した信者が発生した」
「発生した」
「……ここまではギリギリ許される」
「いける?」と少女の目が輝く。
「いけない」
即答だった。
顔を崩す少女に、ラオは指を一本立てる。
「なんで地平を改変したの? 援軍に来た荒くれ連中の人格まで書き換わってるし、惑星が割れたのも見られてるし」
「うううっ」
ラオの深いため息に、少女はすがるように提案した。
「じゃあ、気のせいって事にしない?」
「いちばんやっちゃいけないやつな」
少女はついに膝から崩れ落ちた。
「終わったぁ……」
「終わってない。まだ始まってもいない」
「もっと嫌な言い方しないで!」
ラオはしばらく考え込み、諦めたように肩を落とす。
「仕方ない。……女神様で乗り切れ」
「それ一番苦手なやつ!!」
叫ぶ少女を置いて、ラオの姿はあっさりと光に溶けて消えた。
直後、止まっていた世界が再び動き出す。
「やめて!……ヤ、ヤめなさい!」
少女が叫ぶと、崖へ向かっていた兵士たちが一斉に立ち止まった。
「おお……女神様が我らを導いてくださった……」
勝手に感動し、数千人が跪いたまま自分を見つめている。誰も帰ろうとしない。少女は泣きそうになりながら、ふと思いついた。
「ら〜らら〜♪」
下手だった。
「歌? なんで?」
誰かが思わず口に出す。震える声で歌い続ける少女の頭に、ラオの思念が割り込んだ。
『歌で全員を幸せにするとか、そういうのは無しね』
少女の目から涙と汗がこぼれた。
歌い終わると、勝手に感動して涙ぐむ者もいれば、ぽかんと口を開けている者もいる。少女はやけっぱちになって叫んだ。
「え、宴会を開きましょう!」
「宴会……?」
後方から、老軍師らしき男が恐る恐る進み出る。
「……宴会などしていてよろしいのでしょうか。世界は今、各地で異変が起こっております。この状況で休息を……お許しくださるのですか」
引きつった笑みを浮かべ、少女は拳を握った。
「やるならやらねば!」
「何をでございます?」
「宴会を!」
言い切った。老軍師はカッと目を見開いた。
「おお……!」




