第4章:天災
第4章:天災
【システム警告】プレイヤー集団を検知。目標数:47。分類:「ボス討伐隊」。推奨レベル:なし。生存率:0%。
止まった。
「終焉」の剣についた血は、まだ温かかった。足元のLv.180『深淵の騎士』の死体が、黒いピクセルへと崩れ、風に散っていく。戦闘終了から、まだ3秒しか経っていない。
だが、俺を止めたのは勝利の実感ではなかった。
音だ。
最初は遠くで。葉を踏む音。鎧がぶつかる音。緊張で早まる息遣い。
数えた。47。
47の足音。47の殺意。47人の「勇者」気取りのプレイヤー。彼らは、俺がサブボスを倒した直後を狙ってきた。完璧なタイミングだと、思っているのだろう。
木々の間から、光る装備が姿を現した。
「出たぞ!最終ボスLv.999だ!」
最前列のタンクが叫んだ。金色の伝説級の盾を掲げて。まるでチュートリアルを出たばかりの新米みたいに、自信満々で。
滑稽だ。
彼らは群れのように進んできた。教科書通りの陣形。前にタンク、後ろにヒーラーと魔法使い、両翼に狙撃手と暗殺者。全員が、ゲームは公平だと信じている。999という数字は、ただのステータスだと思っている。
知らないのだ。俺がこの世界の創造主だったことを。
俺は魔王だった。
このダンジョンを、モンスターを、ルールを。全てを設計した張本人だ。
「プレイヤーか…」俺の声は、森の空気を凍らせた。「俺を狩りに来たつもりか?」
彼らは笑った。緊張を誤魔化すような、浅い笑いだ。
「みんな、聞け!こいつ怯えてるぞ!HPはサブボス戦で減ってるはずだ!今だ!『聖なる同盟』発動!」
リーダーの声と同時に、白い光が世界を包んだ。神聖なオーラ。防御力+50%。闇属性耐性+100%。状態異常無効。
全員が同じ攻略サイトを読んできた。同じYouTubeの『Lv.999ボス瞬殺編成』を見てきた。だからこそ、同じ馬鹿だ。
俺はゆっくりと「終焉」を掲げた。漆黒の刀身が、神聖な光を拒絶するように歪んだ。
発動。
自身より100レベル以上低い敵に対して、与えるダメージは10倍。受けるダメージは1/10。
彼らの黄金の装備は、紙同然になった。
「お前らは、このゲームのバグだ。」
俺は動いた。
最初に消えたのはタンクだ。盾を構えるより早く、「終焉」が盾と一緒に胴体を両断した。悲鳴は、口から出る前に止まった。
次はヒーラー。俺を見た瞬間、詠唱を始めようとした。だが、彼女の首は、胴体より先に地面に落ちていた。血が、神聖な光に混ざる。
三人目、四人目、五人目…
暗殺者が影から出てきた。最速のスキル『瞬閃』で背後に回り込む。だが、俺は振り向きもしなかった。
発動。
背中に、目が生えた。
肘で、後ろを突いただけ。暗殺者の胸は、内側から爆発した。
戦いではなかった。『殲滅』だった。12秒。たった12秒で、47人中42人が消えた。
【システム】プレイヤー x42を討伐。経験値:+0。レベル:変化なし。お前は既に頂点だ。
残った5人は、武器を捨てた。伝説級の剣が、枯れ葉の上に無様に落ちる音が響く。
「ま、待ってくれ!俺たちは…俺たちはただ…」
リーダーが膝をついた。金色の鎧が、泥にまみれる。
遅い。
俺は森を見た。木々がざわめく。根が地面から這い出て、道を塞ぐ。俺が閉じた。ここは、俺の領域だ。
骸の玉座に座った。サブボスの砕けた頭蓋骨で作られた、俺だけの玉座だ。
まだ震えているリーダーの死体を見下ろした。心臓は動いている。恐怖で。
俺はしゃがみ、彼の耳元で囁いた。
「伝えろ…」
「最終ボスは、狩られない。」
「最終ボスが…狩る側だ。」
俺の指先が、彼の首に触れた瞬間。
【クエスト更新】
全サーバーのプレイヤーに、お前の名を轟かせろ。お前が『攻略対象』ではなく『天災』であることを、思い知らせろ。
報酬:???
なし。お前に、失敗という概念はない。
リーダーの頭が、静かに転がった。
俺は目を閉じた。47の魂が、俺の中で笑っているのが分かった。
群れは終わった。
そして、本当の狩りが…今、始まる。
第4章 終




