第3話:群狼と、血の宴
四匹。
森狼が、四匹。
赤い目が、暗闇の中で妖しく光る。
俺は、スライムだ。
レベル2。HP8。攻撃力2。
相手は、レベル5×4。
合計HP160。合計攻撃力48。
――数値だけ見れば、絶望だ。
だが。
俺には、数値にないものがある。
247回の死。
9の知力。
そして、恐怖を知らない心だ。
『グルル...』
一匹が、前に出る。
リーダー格だろう。首輪のような傷跡がある。
奴が、飛びかかる。
速い。素早さ10は伊達じゃない。
一瞬で、距離が詰まる。
だが、俺は逃げない。
左の身体が、その場に残る。
右の身体が、横に跳ぶ。
――囮と、本体。
狼の牙が、左の俺を噛み砕く。
グシャッ。
HP8→0。
左の身体が、弾け飛ぶ。
「ガァッ!」
狼が、勝利の雄叫びを上げる。
だが、遅い。
右の俺は、既に奴の背後にいる。
スライムの身体を、針のように尖らせる。
目標は、脊髄。
――二度、同じ手は食わない。
ズブッ。
音もなく、背中から貫く。
硬い毛。厚い皮。筋肉。
すべてを、知力9の精度で突き破る。
「ギュウッ!?」
狼が、のたうち回る。
地面を、爪で引っ掻く。
木が、倒れる。
HP40→0。
一匹、死亡。
――残り、三匹。
残りの狼が、俺に気づく。
目を見開く。唸る。
『グルアッ!』
威嚇スキル、発動。
精神に、重圧がかかる。
だが、俺は笑う。
心の中で。
フハ。
雑魚が、三匹増えただけだ。
次の一匹が、突っ込んでくる。
牙を剥いて。
俺は、地面に潜る。
そう。スライムは、液体だ。
土に、溶け込める。
狼が、俺がいた場所を噛む。
だが、そこには何もない。
「ハッ!?」
狼が、戸惑う。
その一瞬が、命取りだ。
地面から、俺が湧き出る。
狼の腹の下から。
柔らかい腹。防御力8?
笑わせる。
針が、十本。二十本。
腹を、内側から貫く。
「グバァッ!?」
臓物が、飛び散る。
血が、俺の身体を赤く染める。
HP40→0。
二匹目、死亡。
――残り、二匹。
狼二匹が、後退る。
目に、恐怖が宿る。
そうだ。怖がれ。
俺は、スライムじゃない。
俺は、魔王だ。
二匹が、同時に飛びかかる。
挟み撃ちだ。
だが、俺はもう違う。
レベルアップした。
身体が、軽い。速い。
素早さ2。
まだ遅いが、狼よりはマシだ。
一匹の牙を、紙一重で避ける。
もう一匹の爪を、身体を薄くして受け流す。
そして、反撃。
身体を、鞭のように伸ばす。
一匹の首に、絡みつく。
ギリギリギリ...
絞める。締め上げる。
スライムの力は弱い。
だが、窒息させるには十分だ。
「クガッ...クガッ...」
狼が、暴れる。だが、抜けられない。
スライムの粘着力は、鉄の鎖だ。
HP40→0。
三匹目、死亡。
――最後の一匹。
リーダー格の狼が、俺を見た。
赤い目が、揺れる。
恐怖だ。
明確な、恐怖。
レベル5の魔獣が、レベル2のスライムを怖がっている。
面白い。
『グル...』
狼が、低く唸る。
だが、飛びかからない。
逃げるか?
247回死んだ俺が、逃がすと思うか?
俺は、身体を大きく膨らませた。
普段の、三倍の大きさに。
スライムは、水だ。
水は、形を変える。
今の俺は、巨大な青い塊だ。
そこから、無数の針が生える。
百本。千本。
『これが...魔王の本気だ』
声にならない。だが、殺意は伝わる。
狼が、後ろを向く。
逃げ出す。
遅い。
千本の針が、一斉に発射される。
シュッ!
雨のように、降り注ぐ。
一本一本は弱い。
だが、千本あれば話は違う。
狼の身体が、針の山になる。
「ガアッ!!」
絶叫が、森に響く。
そして、途切れた。
HP40→0。
四匹目、死亡。
――終わり。
――はぁ...
静寂。
血の匂い。
肉の匂い。
森全体が、死の匂いで満ちた。
――レベルアップ?
身体が、光る。
青い光が、暗闇を照らす。
レベル:3
HP:8→12
MP:3→6
攻撃力:2→3
防御力:1→2
素早さ:2→3
知力:9→9
スキル:
・分裂 Lv1
・針射出 Lv1 新たに獲得!
――針射出、か。
先ほどの千本針だ。
スキル化した。
これは、強い。
遠距離攻撃手段ができた。
俺は、満足した。
スライムの身体が、ぷるぷる震えた。
四匹の狼を殺した。
合計経験値、+80。
一気に、レベル3。
――だが、終わりじゃない。
森の奥から、さらに気配がする。
ずしん。ずしん。ずしん。
一匹じゃない。
十匹。いや、二十匹。
狼の群れ本体が、やってきた。
仲間の死の匂いに、引き寄せられた。
赤い目が、数え切れないほど。
暗闇に、浮かぶ。
数十の唸り声が、重なる。
『グルル...』
――数十匹。
俺は、レベル3。
HP12。
数十匹のレベル5。
――絶望的だ。
だが。
俺は、笑った。
フハ。
フハ。
数十匹?
上等だ。
俺は、247回死んだ。
数十匹で、ビるか。
むしろ、感謝する。
経験値が、山のようにある。
レベルアップの、餌だ。
俺は、二つに分裂する。
そして、四つに。
そして、八つに。
八つのスライムが、同時に笑う。
『来いよ、雑魚ども』
血の宴の、始まりだ。




