第16章: 「最後のボス」
雨が降り出した。
血と混ざった雨が、森の土を赤く染める。
カイルは立てなかった。魔力に体が焼かれている。
レオンも膝をついている。聖剣が折れかけている。
魔王だけが、無傷で立っていた。
「終わりだ」
魔王は手を上げた。空に巨大な魔法陣が展開する。
『世界を救う』...その言葉の意味が、今わかった。
この世界を一度破壊し、新しく作り変える。
それが魔王の"救い"だ。
「カイル」
名前を呼ばれた。
「最後のチャンスをやろう。お前が勇者を殺せば、お前は私の右腕だ」
全員がカイルを見た。
子供、魔物、勇者、魔王。
カイルはゆっくりと立ち上がった。足が震える。
剣を握る。重い。
『ボスのためなら、死ねる』
あの言葉は本当だった。
だが...
『子供を助けた時の気持ちも、本当だった』
カイルは剣を向けた。
レオンに。
レオンは目を閉じた。
「...来い」
一歩。
二歩。
そして――
カイルは剣を返した。柄をレオンに、刃を自分に。
「ボス」
カイルは笑った。「すみません。俺、やっぱり人間でした」
ブスッ
自らの胸を刺す。
「カイル!」
レオンが叫ぶ。
魔王の仮面が歪んだ。
「...裏切ったな」
「忠誠は、ボスじゃなくて...この世界にです」
光が爆発した。
カイルの体から溢れる魔力が、魔王の魔法陣を砕く。
最期にカイルは思った。
『ボス...ごめん』
『でも、後悔はしてない』
ドッ
世界が白くなる。
――第16章 終わり――




