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死者専用アパートの管理人になった俺、なぜか成仏できない美少女たちに懐かれる  作者: 鷹司 怜


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第十九話 七十年目の再会


「咲子……」


その声が響いた瞬間。


世界が止まったようだった。


佐伯さんは震えていた。


信じられないものを見るように。


涙で滲んだ瞳の向こう。


俊介が立っている。


七十年間。


待ち続けた人。


愛し続けた人。


そして。


救えなかった人。


「俊介さん……」


佐伯さんの声は掠れていた。


一歩。


また一歩。


ゆっくり近づく。


俊介も同じだった。


まるで夢が消えないように。


確かめるように。


ゆっくりと。


第零ホームの崩壊は続いている。


天井は割れ。


時計は砕け。


無数の魂たちが不安そうに空を見上げている。


だが今だけは。


誰も動かなかった。


全員が見守っていた。


七十年越しの再会を。


「ごめん」


最初に口を開いたのは俊介だった。


佐伯さんが首を振る。


だが俊介は続けた。


「待たせた」


その一言に。


佐伯さんは崩れるように泣いた。


子供のように。


声を上げて。


七十年間。


一度も流せなかった涙が溢れていた。


「馬鹿ね……」


泣きながら笑う。


「本当に馬鹿」


俊介も笑った。


「そうかもしれない」


その笑顔は若い頃のままだった。


写真の中から出てきたように。


「思い出したんだ」


俊介が言う。


「全部」


佐伯さんは顔を上げる。


俊介は頷いた。


「君のことも」


「約束も」


「桜の木も」


「未来も」


震える声。


だが確かだった。


失われた記憶が戻ったのだ。


「ずっと探してた」


俊介が言う。


「でも辿り着けなかった」


闇の中を彷徨い続けた。


何十年も。


何百年にも感じる時間を。


一人で。


「それでも」


俊介は微笑む。


「君が呼び続けてくれた」


佐伯さんの肩が震える。


「だから帰れた」


俺は少し離れた場所から見ていた。


結衣の花びらを握り締めながら。


これが。


佐伯咲子という人の人生だった。


誰かを救い続けた人。


誰より優しい人。


そして。


誰より寂しかった人。


その時だった。


砕けた時計から黒い闇が噴き出した。


轟音。


地鳴り。


第零ホーム全体が揺れる。


死神たちが叫ぶ。


「限界です!」


「崩壊が始まる!」


ホームの端から消え始めていた。


存在そのものが。


佐伯さんが振り返る。


初めて管理人の顔になった。


「悠人くん」


俺は頷く。


「分かってます」


時計を直さなければならない。


だが。


どうやって。


その時だった。


俺の手の中の桜の花びらが光り始める。


淡い。


優しい光。


結衣の光だった。


そして花びらの中から声が聞こえた。


――約束だよ。


胸が熱くなる。


そうだ。


この場所を支えているのは約束だった。


人と人を繋ぐ想い。


忘れないという願い。


また会おうという希望。


俺は時計へ向かって走った。


叫ぶ。


「聞いてくれ!」


魂たちが振り向く。


何千もの視線。


「約束を思い出してくれ!」


その瞬間だった。


一人の老人が顔を上げる。


「孫と釣りに行く約束を……」


一人の女性が呟く。


「娘の結婚式を見る約束を……」


少年が言う。


「お母さんと遊園地へ行く約束を……」


次々に声が上がる。


忘れていた約束。


忘れたと思っていた願い。


光が生まれた。


一つ。


また一つ。


無数の光。


それが空へ昇る。


砕けた時計へ集まっていく。


やがて。


巨大な時計が輝き始めた。


止まっていた針が動く。


カチッ。


小さな音。


そして。


長針と短針が進み始めた。


闇が後退する。


崩壊が止まる。


ホームの揺れも消えていく。


死神たちが驚いている。


誰も見たことがなかったのだ。


約束によって世界が救われる瞬間を。


時計は静かに時を刻み始めた。


0時1分。


0時2分。


0時3分――。


永遠に止まっていた時間が。


再び流れ始めた。


佐伯さんは泣きながら笑った。


俊介も同じだった。


二人は手を繋いでいる。


もう離れないように。


二度と。


「ありがとう」


佐伯さんが言った。


俺へ。


深く頭を下げる。


「悠人くん」


俺は首を振った。


「俺じゃありません」


そして空を見る。


桜色の光が舞っていた。


誰かが笑っている気がした。


佐伯さんも空を見上げた。


きっと分かったのだろう。


「結衣ちゃんか」


小さく笑う。


「本当に優しい子だね」


風が吹いた。


桜の花びらが舞う。


まるで祝福するように。


その時。


佐伯さんと俊介の身体が光り始めた。


二人は顔を見合わせる。


驚かない。


もう分かっていたのだ。


終わりの時間が来たことを。


「行こうか」


俊介が言う。


佐伯さんは頷いた。


そして最後に俺を見る。


優しい目だった。


最初に出会った日のような。


温かな目。


「管理人さん」


そう呼んだ。


今度は俺が。


夕凪荘の管理人だった。


「任せたよ」


俺は涙を堪えながら頷く。


「はい」


二人は手を繋いだまま光になった。


桜吹雪の中へ。


長い長い旅を終えて。


ようやく。


一緒に。


そして。


誰もいなくなった第零ホームで。


俺は一人立ち尽くしていた。


その時。


背後から懐かしい声が聞こえた。


「まだ終わってないよ」


振り返る。


誰もいない。


だが。


桜の花びらが一枚だけ舞っていた。


まるで。


誰かがそこにいるように。


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