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238 『重大な資料』

 怪盗デゼル兄による、声帯模倣を使ったフェルディナンド教授とエドアルディ博士の声は一旦やんだが、観衆からの非難は続いていた。


「今度はなにを言うつもりだ!」

「言いたい放題言いやがって! なにが科学者だ!」

「あの四人をこの場から追放しろ!」

「彼らの思想と科学は、あたしたちを支配するための嘘だったってハッキリわかったわ!」


 エドアルディ博士は場を落ち着かせるためにフィリベール国王にうかがいを立てる。


「よろしいでしょうか!」


 その声の大きさに、非難の声は少し小さくなった。観衆もフィリベール国王の反応のほうが気になっているためでもある。


「ふんふん、なにか資料を持っているようだな。重大な資料とみえる」


 エドアルディ博士は、


「はい!」


 と威勢良く返事をした。

 フィリベール国王が手を出す。資料を渡せという動きである。

 しかしエドアルディ博士は渡す前に、必死の弁明じみた前置きをする。


「我々の用意した資料を隅から隅までごらんいただきたい! これを見れば、地動説は完全な誤りであり、天動説こそが正しいことがわかるでしょう! 我々の正しさはこれで証明されます!」

「そ、そうです」


 フェルディナンド教授が同意する。


「ふんふん、そうか。確かにそれが手っ取り早い。専門的なことであれば一度先生にも目を通してもらいたいが、余も気になるしせっかくだから見せてもらうとしよう」

「ありがとうございます。どうぞ」


 フィリベール国王が資料を受け取った。チラと浮橋教授を見やり、


「先に読ませていただこう」

「はい」


 浮橋教授は静かに答えた。

 さっそくフィリベール国王が読み始める。

 その様子を見ながら、エドアルディ博士は朗々と語り出した。


「どうでしょう? 天動説はかくも素晴らしい! これこそが我々の真実! 天動説と人類の歩み、世界の調和、それらの重要性、そのどれもが地動説にはない価値であり学問の意義! 当然、地動説への反証もまとめております。地動説は学者にしかわからない言葉を使って論理を並べ立てますが、天動説はシンプルにしてだれにでもその理屈がわかるのです。裁判官の方々もどうぞごらんあれ。この資料は……あ!」


 渡した資料の中の下にある数枚の紙は、他の資料に比べてズレて挟まっていた。この資料を見つけた途端に、エドアルディ博士は驚嘆したそぶりをみせる。


「どうした?」


 隣のフェルディナンド教授が尋ねるが、エドアルディ博士は身体を震わせてフィリベール国王の手に渡った資料を指差す。


「あ、あ、ぁ……」

「ん?」


 フェルディナンド教授はエドアルディ博士の狼狽ぶりを疑問に思いながらも、エドアルディ博士の指差す資料に目を向ける。


「一番下にある資料……あれは……?」

「う、うわああああぁ」


 突然、エドアルディ博士は叫びながら走り出し、どこかへ行ってしまった。まるで逃げるみたいにして転んではフラフラ立ち上がる情けない走り姿に、人々は呆気にとられる。


「どういうこと?」


 ヒナがサツキにささやく。


「わからない。でも、あの資料が怪しいな」

「うん。あれを見た途端、だったもんね」


 だれもがエドアルディ博士の言動を理解できない中で、もっとも訳がわからず首をかしげたいのは、フェルディナンド教授だった。


「い、一体、なんだというんだ。エドアルディ博士!」

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