237 『核心的な認識』
玄内は言った。
「地球ってのは不思議な星だよな。窮屈で自由で、おもしろい星だ。サツキの世界の人間たちの意識が進化したら、宇宙で暮らす宇宙人になる道も地球をもっと自然豊かにする道も取れる。だが、サツキの生きていた世界もこの世界も、支配構造って罠にハマってる」
「そうですね。一部の支配者がお金というコントローラーを持っていて、皆がそれに操られている」
「ああ。価値観を操作されてる。もしマンフレード博士の研究を認め、地球の環境問題を言い出す者が出てくれば、科学による利権を育てられなくなる。サツキもさっき言ったように、科学は環境問題と切って離せない。近年になって工場ができ始めたアルブレア王国なんかも、環境破壊を指摘されたら困るからな。自分たちが豊かになって科学レベルを上げてから、後に続く国々のことを環境問題に絡めて非難して成長させず、自分たちだけが科学技術によって優位に立ち続けて、不等な取引をさせる。それによっても、正義を掲げられるし、自分たちの利権を守り肥やすこともできる。とかな。プランはいくらでも用意しているはずだ」
「先生の言ったことは、俺のいた世界そのままです」
「お金という一見平等な価値基準を通貨として創造し、その価値を自分たちが決めている。サツキのいた世界もこの世界も、今は、庶民が想像もつかないほどの金を持ってる一部の支配者が世界を動かしてるってことだな」
自分たちだけが文明レベルを上げたあと、他国が成長するチャンスを潰すことは、自分たちの利権を作り守ることにつながる。自分たちだけが便利な生活をしながら、他国にそれを許さず、環境問題を考える正義にさえなれる。
当然、「おまえたちも環境を破壊しながら科学を発展させてきたじゃないか」と言われても、「今、地球を守らないと大変なことになるのだ。だから我々は環境を汚染する活動などしてはいけない」と返せばいい。
しかもその上で、後進国には自分たちが独占した科学で作ったものを売りつけ、あとから健康に悪いと判明したものの処分場にもして売りつけ、環境対策のための組織を作って世界の国々から資金を収奪する。
そうした循環が目に見えるようだと浮橋教授はヒナに語ったことがある。
その上で、
「宗教は、それだけならばどれも人々が創り出し信仰するものであって、そこに良し悪しはない。悪いのは、宗教を利用することだ。権利やお金のためにね」
と言った。
「宗教を利用し支配する、ピラミッドの頂点にいる支配者たち。その巨万の富でも足りないほどの金を持つ彼らと戦うことが、この地動説をかけた戦いの奥にあるものだな」
玄内にそう言われて、ヒナも大きくうなずいた。
「わかってます。でも、今回宗教を裏で支配するそいつらにまで手を伸ばすんですか?」
「前にも言ったが、おまえが考えることじゃない。それに、まだその規模の戦いはできない。今回は地動説を証明して認めさせるだけで充分だ。支配者たちによって、支配者たちに都合良く巧妙にデザインされているのがこの世界だが、成熟しきっていないのも事実。報道機関一つ取っても、まだすべてが一つの思想に統一されていない。今なら、地動説という風穴を開ける隙はある。だが、世界をひっくり返すには国家レベルの力が集結しなきゃならねえ。だから公開実験に集中すればいい」
そんな話をされて、また話題が公開実験の準備確認に戻ってその日の盗聴は終わった。
――オレもまだまだ勉強不足だったが、まさか彼らのようなやつらがいるなんてな。今回、こうして出会えてよかったよ。この怪盗デゼル、大きな戦いをするってんなら力を貸そう。だが、まずは目の前の一歩からだ。
怪盗デゼル兄が観衆の中で、とある盗聴の備忘録を思い出していたとき。
エドアルディ博士が大きな声を上げた。
「国王陛下!」
彼は資料を手に持っている。
――始まったか。さて、まずは目の前の一歩から。
再び、怪盗デゼル兄は観衆の中を動く。




