235 『革新的な見方』
怪盗デゼル兄は、サツキと浮橋教授の会話に釣り込まれた。
浮橋教授はまたすごいことを言った。
「月に降り立ったとか、宇宙旅行の話とかも聞いたけど、サツキくん個人の見解では、人類は環境問題を乗り越えるために、地球を旅立って宇宙で暮らす可能性ってあると思うかい?」
「俺の予想では、環境問題が科学で解決されなくなったとき、あり得ると思ってます。今も宇宙を旅して地球に戻る機会を見計らってる可能性も。まあ、科学の進歩と共に環境問題が生まれ大きくなって、それを科学が解決しようとするのは皮肉ですが」
「科学は人を幸せにするためのものだけど、やり方によってはいろんな問題が起きるよね」
と、ヒナも複雑そうに同意した。
「でも、マンフレード博士の研究でも言ってたように、地球の自浄作用によってある程度なんとかなるとあたしは思うけどな」
「メイルパルト王国で見た碑文には、かつて大きな戦争があったって書いてあったし、地球を破壊するだけして人類が宇宙に行った説もあるんじゃないか?」
「神龍島では次元転換装置を使って時代をすっ飛ばして住める世界に行った可能性も話したじゃん」
「その可能性もある。だから、次元転換装置を使えず取り残された人たちが獣人やエルフやホビットに環境適応して進化したって俺は予想しただろ。どっちになってもおかしくないさ」
「あたしは宇宙に行った説も推したいけど、マンフレード博士が言ってた地球の力も信じたいの」
微妙に決着のつかないサツキとヒナの会話だが、ただ意見が合わないとかではなく、議論そのものを楽しんでもいるように聞こえた。
「ヒナはマンフレード博士を応援してるもんな」
「別に、応援ってわけじゃないけど。だって、マンフレード博士は死んじゃったし。宗教を否定する研究だからって、異端審問で」
なるほど、と怪盗デゼル兄は理解した。
――宗教裁判。異端審問。マンフレード博士は浮橋教授と重なる。そりゃあ、この子も肩入れしたくなるか。にしても、城那皐くん……キミは本当に何者なんだ? メイルパルト王国の碑文とやらにも興味はあるが、今の話じゃこの時代のオレたち人類は次元転換装置を使って彼のいた時代の後の時代から約一万年を飛び越えてやってきた存在になる。しかも、獣人が元は普通の人間なんてこと、あり得るのか?
疑問と興味は尽きないが、会話は続く。
サツキはつぶやくように言った。
「去琵鬼漫降渡博士。何度かヒナからも話は聞いたけど、つくづく悔やまれるよな……」
「うん。今のあたしたちなら、なんとかできたかもしれないんだから」
「なに辛気くさい顔してやがる。おまえら、まずは自分たちの実験を心配しろ。じゃねえか、心配しても仕方ねえ。自分たちの実験に集中しろ」
玄内に言われて、サツキとヒナは素直に答えた。
「はい」
「そうでしたね」
怪盗デゼル兄はマンフレード博士に関するニュースを思い出す。
――マンフレード博士は、《気象ノ卵》から『大気の子供』が生まれて、地球は自らの意思で自然環境を再生させるって研究をした人だよな。詳しくは覚えてないが。
玄内が聞いた。
「なあ。サツキはそんなにマンフレード博士のことが気になるのか?」
「地球を生き物みたいに考えて、その性質を魔法というフィルターを通して的確に見抜いた目。もしそんな人と話ができたら、どんなことを言うだろうと思ったんです。先生は会ったことあるんですか?」
「おれはねえな」
「浮橋教授はありましたよね」
「友人だったからね。分野も違うしあまり会うこともなかったけど、顔を合わせればいろいろ話したよ。彼はとても頭の良い人だった。そして、芯の強い人だった」
「なんだか、浮橋教授に似てますね」
「そうかな?」
と、浮橋教授は照れたように小さく笑った。
「ヒナもマンフレード博士には会ったことがあったんだよな?」
「うん。あたしも幼い頃にだけど会ったことがあって、『今もそこに子供たちがいるよ』って言われたのを覚えてる」
「『大気の子供』だっけか」
「そう」
「どんな姿なんだ?」
「妖精とか精霊みたいなんだって。羽があってぱたぱたと飛んでるって言ってたよ」
「へえ。妖精か。今生きていれば、聞きたいことがたくさんあったな」
「そうだね。もし生きていれば……なにを聞けたかな」
サツキとヒナが思いを馳せてもどうすることもできない。
できるのは、公開実験を成功させて地動説を認めてもらうことだけだ。
浮橋教授が話を戻す。
「サツキくんの元いた世界はこの世界の一万年以上も前の世界……厳密には、そのパラレルワールドの一つ。そこからサツキくんは魔法によって召喚された。でも、サツキくんの世界では、魔法がなかったんだよね? そうなると、科学は魔法を超越していたのかな?」




