234 『義賊的な味方』
「え、怪盗デゼル?」
ヒナは目を丸くした。
意外な人物の名前が挙がったことに驚いたのだ。それは先日サツキたちが戦った相手の名前であり、ついに取り逃がしてしまった怪盗。このシャルーヌ王国では義賊として人気の存在だった。
サツキはうなずく。
「蓄音機はこの世界にもある。だから、どこかで録音されていたものをだれかが再生した可能性は充分にあると思った。しかし、本人がしゃべっているわけじゃないのに、都合の良いタイミングで場面に合わせた言葉はそうそう出てこない」
「だったら、その声を出している人がこの場にいる。それができるのが怪盗デゼルってこと?」
「うむ。怪盗デゼルの声帯模倣ならあり得る。いや、ほかに特殊な魔法でもない限り、怪盗デゼルしか考えられない。嘘をつくとき、半分真実を織り交ぜる手法も同じだ」
「でも、なんであたしたちの味方みたいなことするの? 宝石を盗むのを邪魔したサツキのためにさ」
「それは俺にもわからない。だが、あの怪盗は悪事を嫌う義賊だ。なんらかの情報を調べ上げ、宗教側の悪事を知り、彼らを懲らしめたいと思ったんだろう。先日の青い宝石にも執着はなかった。怪盗デゼルは欲でお宝を盗むわけじゃない。あくまで義賊、だから宗教側の裁判官たちのことが許せなかった。まあ、敵の敵は味方ってことだな」
怪盗デゼルは二人いる。
双子の兄と妹で、サツキは妹のほうと話をした。
そのとき、彼女は「今回はブリス氏の宝石を巻き上げて社会に還元するのが目的なんだよね。それができればお兄ちゃんは満足ってわけ。特にブルークレールと竜の瞳は、最近のブリス氏の急成長を象徴する品物だからさ」と言って宝石にこだわらなかった。
ブリスの悪事が明るみに出た段階でよしとして、あとは世間にブリスのお宝をばらまいていたほどだ。
今日の士衛組への手助けも、義賊としての行動原理によるものだろう。
単に、利害が一致しただけ。
手を組むつもりもないから、影からアシストした形になったに過ぎない。
これもサツキの推理だが、そんなところだろう。
「そっか。ありがたいわね」
「ただの正義の味方だよ」
サツキの声がそう言った。
しかし、声の主はサツキではない。サツキの口は動いていなかった。
サツキが言いそうにない言葉に、ヒナがサツキを見ると、サツキも背後を振り返った。
しかし、そこにはだれもいなかった。
「聞いてたのか」
「みたいだね」
ちょっとおかしそうにヒナが笑って、サツキも苦笑した。
「あんなのは、ただの正義の味方気取り、さ」
それから、サツキはあの特殊で強い《波動》を感じるほうを見た。
「でも、感謝してる」
もうサツキとヒナは観衆に溶け込んだ怪盗デゼルを見つけられない。
フっと笑って、怪盗デゼル兄は観衆の中を歩く。人波に紛れながらもサツキとヒナにできる限り近づいてわざわざ声をかけたのも、この怪盗の茶目っ気でもあり、予告でもあった。
――すべて正解。ご名答、城那皐くん。さすがにキミは常人ではないらしい。異世界人とか古代人とかおかしな話もあったけど、まんざらまったくの嘘じゃないかもしれないな。
サツキたち士衛組と対決したあと、怪盗デゼル兄妹は気になって宗教側の裁判官周りを調べた。
同時に、サツキたち士衛組のことを調べていたのだが、おもしろいことがわかった。
怪盗デゼル兄は、サツキとヒナと玄内が浮橋教授と話していた内容を盗聴したときのことを思い出す。
数日前。
サツキたち四人は実験当日についての相談を終えると、会話は雑談になっていった。
浮橋教授がこんなことを述べた。
「そういえば、サツキくんの世界では人類が宇宙にも行ったんだよね」
まずここで、
――サツキくんの世界?
と引っかかる。
つまり、サツキが別の世界からやってきたことになる。




