変化2
じゃり、ガリと庭先の玉石を踏みしめながら遠ざかっていく音。
それを聞いて、報告に来た者を想像する。底の硬い木靴のようなものを履いているのだろう。
それだけで、少なくとも武官や獣、魔物の姿の者ではないことを察することができる。
さらにいえば、ガリと木と石の擦れる音が聞こえるところからして、
この玉石の上でよたつかぬよう歩くだけでせいぜいなのだろう。
(ワタクシの良き頃でいいというのは本当のようですわね。
もしお急ぎなのでしたら、連絡をよこすにしろ そのままこの門を開けられるくらいの武官をよこすでしょうし)
「亀姫様。魔王様がお呼びになってるって…なにかあったのでしょうか。
例えば近衛様にとか、あるいはまた何か…その、恐ろしいことが…」
後方から声をかけてきた天使は、どうやら亀姫とは真逆の予想をしたようだ。
まったく、能天気で普段は考えが足りていないというのに、どうしてこうも悪いことにばかりは頭を働かそうとするのか。
とはいえ、亀姫もどのような用事で自分が呼ばれているかまでは判断がつかない。
不用意な言葉や無為の言葉で慰めるのもおかしな話だろう。
「少なくとも、魔王陛下がワタクシを呼び出した理由が、貴方に危険が迫っているのを知らせるため、ということはありませんわね」
「? どうしてそのようなことがおわかりなのですか?」
「あら、あたりまえですわ。ここをどこだとおもっていますの?」
「えっと…魔王様のお部屋ですよね」
「そうですわ。この魔の国で最も堅牢で安全な場所。もし貴方の身に危険が及ぶことがあるとすれば、ワタクシもろともここに”閉じ込めて”開けさせることはありませんもの」
「で、でも。私はともかく、有事とあれば亀姫様のお力は必要なのでは」
「あら、嬉しいことを仰るわね。でももし陛下がワタクシの力を少しでもお認めになってくださっているのなら、なおさらここに閉じ込めるでしょうね」
「???」
「貴方おひとりをここに残したって、その後でどうにもなりませんもの。護衛役も世話役も、ある程度”使える”のが居ないことには始まりませんわ」
「う…」
「ふふ。心配なさるなら、自分より幼く弱き者にしておあげなさい」
「……」
ちょうど、外から大きく開門を告げる声が響く。
大扉を二人の逞しい獣人が両側より開き、隙間から眩しいほどの光が差し込んできた。
天使が思わず目を細めてしまう間に、亀姫はその光の奥に消えていく。
門は全開せず、そのまままた閉ざされる。
薄暗い部屋の中に一人遺された天使は、亀姫の言葉を反芻していた。
(自分より、幼く弱いもの… 私が心を配ってあげられる人、守れるもの…)
心に浮かぶのは、皆 自分より立派に思える人ばかり。
(……私は…)




