変化
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翌昼・魔王殿
「亀姫様、それから? それから亀姫様は、魔王様にどのように…」
「そう急かさないでくださいませ。話には順というものがございますのよ」
「だって、だって。亀姫様が今こうしていらっしゃるのはわかっていても、お話を順に聞いてしまっていては、ハラハラして胸がどうにかなってしまいそうで――あら?」
ジャリ…ガリ。
門の外から、玉石を踏む音が聞こえた。
「し。 …どなたかがこちらにいらっしゃいますわね」
「…魔王様が戻られたのかしら…」
「陛下ならよいのですが、これは違いますわね。天使、一度、御簾を降ろしますわ」
「は、はい」
すっかり打ち解けて幼子のようにはしゃいでいた天使ではあったが、怪訝そうな亀姫の態度に
急に怖気づいたようだ。羽を小さくして、やや亀姫のそば近くになって身を丸めた。
「結界の中は安全ですわ。ですが、何が来たのかと恐ろしく思うのでしたら、その奥の御車の中へ隠れていてもよろしいですわよ」
「ですが、亀姫様は…」
「?」
「恐ろしいからと、私ばかり隠れて、亀姫様をお一人にするのは…少し、気がひけます」
「まぁ」
天使が少し俯いて、健気な言葉を吐くのを、亀姫は驚いた顔で見つめた。
自分のことを心配したことにではない。
そもそも、“心配をする”ことに驚いたのだ。
「ここは魔王殿、主君の居室です。このような白昼堂々と、まして歩み寄ってきて害をなすような者がいるとはおもえませんの。
そして私は亀姫、魔王陛下の忠実なる臣下。もし万が一にもここを穢そうとする輩がいれば、ワタクシは理を失ってでもそのような輩を赦す気はありませんのよ。
ワタクシが恐れなければならないのは、唯一つ。この居室に魔王陛下がお戻りくださらないことだけですわ」
コロコロと笑いながら御簾を降ろし、天使を隠す亀姫。
天使は、ほっと息をついた。
薄紫の向こうにゆっくりとかすんでいく亀姫からは、思わず頬を染めてしまった天使の顔色は見えていないだろう。
強く、気高く、信念を持つ亀姫。
美しく、優雅で、深く深い愛を捧げ持つ亀姫。
天使はこの数日で、すっかり亀姫を慕ってしまった。
憧れ、というのが近いのかもしれない。かなわない理想像とも言える。
御簾を降ろしきった亀姫が袂を寄せ、大扉の前に立つ
「誰ぞ」
パシ、と音を立てて扇を広げると、よく伸びた声で呼びかける。
舞うかのごとく袖を揺らして扇で顔を隠す仕草は、何度視ても見惚れるほどに流麗だ。
声を掛けるより先に、亀姫から言葉があったのに驚いたのだろうか。
外にいたものは、一瞬の間をおいて(おそらく膝をついて)から、改めて呼びかけてきた。
「はっ。魔王陛下より、亀姫様に所用ありとの仰せ。また姫様の良き頃で構わないとのこと。願わくば、つつがなく殿上の間へと参内くださりますよう」
「わかりましたわ。そこの者、ご苦労。あなたがもし文官ならば、この戸を開けられるものを呼んでいらっしゃい」
「は、はい」




