兆候
「あ、えっと・・・・亀姫様をみていたら、少し懐かしいことを思い出しまして」
「あら、では今日は貴方のお話でもなさいます?」
「そ、それより やはりもう少しお話を聞かせていただきたいです!」
「魔王陛下のことをお聞きしたいということでよろしいのかしら」
「……例えば… 魔王様と亀姫様のお話や、魔王様と近衛様のお話を聞きたい、というのはよいのでしょうか」
「…そのダダ漏れな本音を、少し隠すのがうまくなるようにお勉強をしてもよろしいですわよ」
「ご、ごめんなさい…。でもその、私は…やはり、魔王様って恐ろしく感じるので、いきなり魔王様のお話を聞いても…その…」
「?」
「怖い話のように想像してしまいそうですし…」
「……仕方ありませんわね。魔王様への偏見や先入観を取り除くため、親しく思う人物との関わりから聞きたいというのは、それなりに理にかなっておりますわ」
「で、では」
「…あいにく、坊やと魔王様の普段のことなどはワタクシはあまり知りませんの。ですから今度、坊やになにか印象的なことなど聞いておきますわ」
「そうでしたか…、いえ、ありがとうございます亀姫様」
「今日のところは…ワタクシと魔王様のお話でよろしいですわね?」
「……はいっ!」
それからの数日は、亀姫は天使の元を訪ねては多くの話を教えきかせた。
「陛下の御業は、他の魔族にはとても真似のできないものですわ。
ワタクシ達と魔王様は、その存在からして大きくかけ離れておりますの…
例えば陛下がもし本気でその御業をもってかかれば、ワタクシの身体の中の魔素…
つまりワタクシの生命でさえ、ご自身の力として使うこともできますのよ」
亀姫の口から教えられる魔王の偉業は、天使にはどれも強大すぎて恐ろしくも感じるものだった。
横暴で傲慢な王だとも感じた。
「ですが陛下はそのようなことをなさったことは一度もありませんわ。『他者の魔素を持って力を行使して何になる?』とお笑いになりますの」
魔王が言ったとされる数々の言葉も、天使にとっては乱暴に感じるものばかり。それでもその魔王の話をする亀姫は愛おしむようで誇るようで、話を遮ることはできなかった。
「ご自身の絶対的な力はもちろんありますけれど、陛下は本当に必要とするもの以外は求めませんわ。
求めてほしくば、陛下が本当に必要とおもうだけのものを自らに宿さねばならない…
ふふ。そういったところは、つれない方ともいえるかもしれませんわね」
天使はただ、理解することもできず。
それでも、否応なしに亀姫が想い慕う気持ちばかりは感じられ。
それが故に、魔王に対して恐れだけではない感情を持つようになった。
それは小さな疑念にすぎない。なぜ、魔王がそうも好かれているのか…ただそれだけの疑問。
(魔王様は…私にとっては、本当に恐ろしく思うけれど…。本当にそうなのかしら…?)




