天使4
「ごめんなさい、姉さま…。姉さまを、とても困らせて、それにきっと悲しい思いをさせました…」
「いいよ、天使。もちろん赦そう。だからそう泣きそうな顔をするのはやめておくれ」
「でも…」
「どうか、私の赦しを受け取っておくれ。たしかに私は今、お前の罪を暴き、裁いた。そしてお前は許しを請うてくれた。ならばどうか私の赦しを受け入れておくれ」
「でも、姉さま。私は姉さまを悲しませました。私は罪を知ったけど、まだなんの罰もうけておりません」
「天使、それは違うよ。お前は裁きを受けて、その罪を知り心を痛めた。それは十分な罰なのだ」
「心を…ですか?」
「私の心を悲しませた罰に、お前はすでに自らの心を痛めてくれた。それで十分すぎるほどの罰なのだ。これ以上、お前が罰を求めて 私がそれを与えなければならないのなら… それは、お前をもっと優しく諭してやれなかった私への罰になるのだろう。愛しいお前を傷つけるのは、私の心も傷つける罰になるのだから」
「姉さま…。それは、それはだめです。これ以上姉さまが傷つくなんていけません。姉さまの赦しをいただきます。姉さまの暖かな御心に、ただ感謝を」
「ありがとう…」
「わ、私が感謝しているのに姉さまに感謝されてしまいました!」
「ふふ。ああ、天使。とても大事なことだから、ついでと思って、ひとつ聞いてくれないか」
「なんでしょう、姉さま?」
「罪がひとつ生まれ、それを裁く。それはとても難しいこと…という話さ。もしお前が誰かの罪を知り、それを裁こうとするときがくるならば、どうか覚えていてほしい」
「…?」
「裁かれたものは、同時にすでに罰を負っているのだ。裁かれる、ということが、すでに一つの罰になってしまうと忘れないでいてくれ」
「…裁きこそが、罰…ですか?」
「そうだ。そしてもし、その者が お前のように罰を受け入れて赦しを願ってくれるのであれば、それを赦すことができる…。その時に、ひとつの愛が生まれる。どのような愛かは我々には知るすべはないが、我々はその為に裁きを行っているのだよ」
「…愛、ですか?」
「ああ。大きな罪を裁けば、大きな罰が与えられる。そしてまた大きな赦しを求められ、大きな赦しを与えられた時には、大きな愛も生まれよう」
「……その。少し、難しいです…」
「ふふ。そうだな。私もそうと知るのにはだいぶ時間がかかった。裁きと赦しは常に共にあるべきものだと知っておいてくれればいい……もし、裁きしか与えられず、赦しを与えることができなくなれば… 生まれるのは…」
「…姉さま?」
「っ、すまない。ついでといいながら、少し長くなってしまったな」
「いえ…。あの、姉さまは、どうしてそのようなお考えを理解するに至ったのですか?」
「……過大な裁きに、身に余る大きな罰を与えられた者がいたのだよ。
其の者からは拒絶され、赦しを請われることも、赦しを与えることもできなくなり…
そうして生まれてしまったのは、大きすぎる憎悪だけだった」
過大な捌きを与えた罪。それをいくら認めても、もう裁いてもらえることもない。
そしてもちろん、赦してもらえることも…。
悲しそうに、諦めたように そうつぶやく彼女に、天使はかける言葉を持っていなかった。
だがそんな天使を見て、こまったように優しく微笑み、
いつか赦し会える日を願っているのだと、教えてくれた。
償うことのできない業を抱いた女神は、天族がもっとも忌むべきとされる、
血と戦を祀る神に身を貶すほどだった。
天使は、そんな彼女の抱くものの大きさなど、とても測ることができなかった。
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「どうかなさいまして?」
訝しんだ声音を聞いて、天使ははっとする。
顔をあげると、扇の向こうから心配そうにこちらを覗き込んでいる亀姫の姿が見えた。




