亀姫と、天使7
「……・あの、あなた…は」
「ワタクシのことは、亀姫と」
「亀姫様は…近衛様と、お会いになることがあるのでしょうか」
「……ええ。ワタクシは医術を扱うことができますの。魔素を与えたり安定させればいいだけの対処であれば他の者が対応しておりますけれど、中にはひどく衰弱した者もいますからね。そういった手当のために、近衛のいる社殿にもよく呼ばれましてよ」
「では…近衛様に、あったら・・・ひとつ、伝えていただきたいことがあるのですが 頼まれていただけるでしょうか」
「……内容によりますわね」
「……それ、では」
抑揚のない、天使の声色。
隠しきれていない、翼の小さな震え。
「近衛様に ……『私は、もう平気です。近衛様は、どうかご養生なさってください』と…。それだけなら、伝え願えますか…?」
途切れそうな言葉だった。
それでも最後まで、きちんと言葉にした天使に、声には含みきれずとも ひとつの決意を感じた。
「………いいえ。陛下を差し置いて、近衛の身を案じる貴方の言葉などお伝えするわけにいきませんわ」
「そう、ですか…」
「ですが…貴方が賢明になる覚悟で今の言葉を伝えようとしたのなら…そのお気持ちだけは汲みましょう」
「・・・はい、ありがとうございます・・・」
「…貴方のためではありません。全ては、陛下のためですわ」
そしてその決断をした天使に、亀姫はほんの少し罪悪感を抱いた。
亀姫自身と同じように、この天使もまた、自分の恋い慕う相手のために己の感情を抑えると決めたのだろう。
亀姫と、同じ。
この哀れな天使と、自分もまた同じ。
申し訳なく思う気持ちもある。できるなら叶えてやりたいと思わなくはない。
それと同時に、辛い思いをするのが自分だけではないという安心感も抱いてしまった。同情。親近。
決して自分には手の届かない、魔王に寵愛される天使が 一方で自分と同じように叶わないものを抱いているという、安心感。それを感じて、亀姫は小さく笑った。
(この亀姫ともあろうものが…。こんな天使に、劣等感を抱いていたのね)
けして性根のいい感情ではないと分かってはいる。
だが、生まれてきてしまう感情ばかりは抗うことはできない。
だが、理解してしまえば受け入れることも消化していくこともできるだろう。
感情に囚われて、選択を誤ることもきっとないだろう。
「全ては、魔王陛下の御意のままに…」
そう、思わず口に出てしまったのは 亀姫もまた自分の心を律したからだろうか。
亀姫のそんな心を、天使は知ることはなかった。
だが、その美しい横顔と、うっすらと浮かんだ笑顔。
それと、憂いを帯びた視線に、天使もまた、亀姫が魔王に寄せる心があることにわずかに気付くことができたのだった
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