亀姫と、天使6
はっきりと。よく通る声で宣言する。
天使は言葉をなくして、顔を赤くしたままで小さく震えている。
なにか言葉を発しようとしているのか、たまに息を呑むような仕草をするも、すぐに青ざめて、また俯いて…
小さく細い腕を胸元に寄せて、その掌を反対の掌で握りしめる。亀姫はその仕草を見て、一瞬 天使が怒りに拳を握ったのかと思った。
だが、すぐに考えを改める。
天使は、祈ろうとしているのを抑えているのだと気づいたからだ。
(……天界は堕ち、もはやこの娘が祈りによって助けを求める相手はおりませんものね。神頼みばかりで自らの力で切り開くことをしてこなかったとしたら…祈るのではなく、こうして自分の言葉を探しているだけでも、この娘にとっては大きな試練なのかもしれませんわ)
天使が重ね合わせた小さく震える掌を見つめ、亀姫は気付かれないように息を吐き出す。
「ワタクシからの忠告は以上ですわ。さて、近衛の様子でしたわね…」
そう話題を切り替えてみると、天使はピクリと肩と翼を反応させた。
だが、まだ自分自身がどう振る舞えばいいのか…示されたものを受け止めきれていないのだろう。顔をあげることも言葉を発することもできないまま、ただ座り込んだまま動けないでいる。
「……近衛でしたら今は魔素を強めた屋敷内の一角の中で、他の者たちと過ごしておりますわ。そこでならこれまでどおりの活動はできますから、今は先日の戦の後処理…国内の様々な問題に対処するのにあたっています。あの坊やは文官が本職ですのよ」
「………」
「この殿内とはいえ、まだ魔素の濃淡がまばらな箇所がありますわ。今は国内の、魔素の弱った箇所を優先的に対応するため人手が足りず、自然とこの強者の揃いやすい殿内は後回しになっておりますから…近衛が自由にあちらこちらへと歩き回れるようになるのは、もう少し先になるかもしれませんわね」
そこまで説明をしてやってから、亀姫は言葉を止めた。
近衛の無事を説明したのは、天使自身の不安を消すための他にもうひとつ理由はある。この絵に対する心配を、この絵への思いを募らせる理由にさせないため。
近衛が無事で平穏に過ごしていると説明してしまえば、多少の心配が残ったとはいえ必要以上に思考をとられることがなくなる。そのうえで、天使自身がどう振る舞うべきかを冷静に考えさせることができるだろう。
(……ワタクシの役割は、ただ魔王様の為にあること。それ自体がワタクシの喜びであり、ワタクシの生きる理由…。そう、だから これでよいのです)
天使から不安を取り除き、魔王の心が少しでも天使に届くように。
亀姫の心音が、またすこし早くなった。




