亀姫と、天使5
一度話を落ち着けて。亀姫は自分の言葉をよく噛み締めながら、魔王のために最も優れた結論と伝えるべき言葉を選び出す。
少し、胸が痛み、そのせいで動悸を覚える。
嘘をついている時にもよく似た感覚。
言葉にしているものは何一つ嘘はない。ただ、自分の感情にだけは嘘をついているからこそのものであり、その感情は決して誰にも知られてはいけないものだ。
ひとつ、大きく息を吸う。
そう、全ては魔王のために。亀姫はそう心に刻み直し、頭の中で会話の筋書きを立てていく。
「忠告させていただきますわ。貴方は魔王の寵愛を受ける者。そんな貴方が、魔王陛下の右腕であり忠臣である近衛に想いを寄せれば…近衛の立場は、どうなると思っていまして?」
「っ!」
「……あの坊やが、おいそれと陛下の私物に手を出すなどとは思っておりませんわ。
ですが、坊やもまだ若く、視野も狭い。それにまだまだ陛下の御心を理解するには任が浅すぎる…。
今は貴方の身を案じるがあまり、なおさらに視野が狭くなっておりますの。
陛下に背くつもりはなく、ただ貴方を害することのないように陛下をお諌めしようとする…そんなところかしら。若い正義感だわ。真実というものは何も見えていない。でも、陛下に逆らう気持ちは“今”は無いけれど・・・」
「今は…?」
「貴方次第ですわね。あなたがその近衛の立場を知っていても、あの坊やの心をたぶらかすような事があれば、わからないということですわ。
ただひとつ、あの坊やが貴方と思いを通わすようなことがあれば、そのときは…」
「その時は…どうなるのですか?」
「その時は、坊やは陛下に対する逆臣ということになるということ」
「逆…逆臣、です、か」
その強い単語を聞いて、天使は顔を青ざめさせた。
「ゆめゆめ忘れることのないようになさい。少なくとも私は、貴方が”知りませんでした、そんなことになるなんて思っても見なかった”なんていう言い訳をして逃がすことはしませんわ」
「そんな・・・」
「あら。それとも貴方、近衛が貴方の手を引いてこの結界から助け出して、
魔王陛下に逆らってその御身を打倒し、ふたりきりで幸せな逃亡でもする夢にでも憧れておりましたの?」
「っ」
今度は、天使は顔をひどく赤くした。
あながち外れてもいないのだろう。
憤慨しているというよりは、自分の無知さを恥じているようにも見える。
考えが足りていないことは、この娘自身でも分かっているのだろう。
「・・・何も考えていない、平和な娘。一人で妄想に耽って楽しむくらいでしたら、ワタクシも何も言いませんわ。
ですが、陛下を…そして坊やを巻き込みその身を不幸に導くような妄想に巻き込むつもりでしたら…
許しませんことよ」
毎朝更新に変更させていただくことにしました。どうぞよろしくお願いします。




