亀姫と、天使4
「なんですの?」
「……その。もし、知っているのでしたら、おしえていただきたいことが、あって」
「? ええ、わかることで、教えていいものでしたら、ワタクシからお答えしてもいいですわ」
「その…」
言いよどんで、はっきりと口にしない天使の様子に亀姫は焦れを覚えたものの、詰め寄ることはせずに黙って言葉を待つことにした。
亀姫が魔王に言われたのは、良く計らい、この天使の不安などを取り除くこと。亀姫自信が天使をどう思うかは魔王の命の前では意味をなさない。
「近衛様のご様子、に ついて・・・お聞きして、いい…でしょうか」
「……」
天使がようやく口にしたのはそんな質問だった。
近衛の様子。
たしかに今、最も天使が不安に思っているのは近衛の様子であろう。答えること自体は吝かではない。だが素直に答えることだけが「良き計らい」ではないことを亀姫は知っている。
「その質問に答える前に、ひとつワタクシからお聞きしておきますわ。貴方、近衛には心を許していらっしゃるの?」
「え、その……は、はい」
「近衛が魔物ではないから、少しは安心できる…ということかしら?」
「そ、そんな。魔物だから、とか…そうじゃないとか。そういうことでは、多分…ないと、思います…。近衛様が魔族では無いと知ったのは、お話をしてお聞きした後ですので…」
その回答に、亀姫はひとつ安堵をする。
だがこれは予想はしていた。
亀姫が魔族であることは見ればわかる、その上で、自分とこうして会話をしようとしている以上、天使だから魔物や魔族すべてを嫌悪するというわけではないという確証を得た程度に過ぎない。
「近衛は誠実な方であるのも事実、惹かれたとしてもおかしくないですから、わかりますわ」
そう答えてやると、天使は少し気恥ずかしそうに俯いてしまった。
そうして生まれた、第二の懸念への確証。
(天族に勇者と選ばれた近衛は、天族の好む…いいえ“”理想的な”偶像に近似した人物だということですもの。
天使が個人的に好むことは、ありえなくはないけれど…。これは よく、ありませんわね)
魔王が天使へ向ける感情と、天使が近衛に向けている感情。向き合わない感情。それは本来であれば亀姫には都合のいいこと。ただしそれは、魔王が天使に執着をしない場合に限ってのことである。
「……近衛の様子でしたらお教えして差し上げます。けれどその前に一つ言わせていただきますわ。貴方は魔王陛下の寵愛を受けていらっしゃる身分ですのよ。囚われの身にあっては寵愛を受けていると感じにくいのかもしれませんけれど」
「寵愛、だなんて。あの人は私のこと…」
「あの方は、貴方のことを本当に大事にしていらっしゃいますわ。いいえ、そんな言葉では安すぎて陛下に失礼ですわね。それなのに、当人である貴方がまったく無自覚なまま、あの方の愛情をその一身に受けていると思うと、正直ワタクシは…」
「その」
うまく理解できない様子で、否定も相槌もできないままかけた言葉を繋げられない天使に、亀姫は自分の言葉に余計な感情が入ってしまっていたことに気づいた。
「っ。いいえ、陛下のお心をワタクシが語るような真似は許されないことでしたわね」




