↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
85/99

亀姫と、天使2

――――――――――


天使は、魔王殿の中に入り込んできたその人物を見たことがあった。


あれは確か、魔物が一同に介した場に魔王によって連れて行かれた日。

あの日は恐ろしくて、とても周りなど見ていられる状態でもなかったとはいえ、

印象的なその容姿には見覚えがある。


魔物ではあったが、その中でも穏やかな笑みを浮かべた、妖艶で美しい姫君。

大きな亀の背が特徴的で。

誰が見ても上等だとわかる絹をたっぷりとつかい、染も刺繍も繊細で美しい着物をまとった女性で。

ゆったりした袖口を、まるで亀のヒレのように流麗に動かす仕草は、

一度見たらそう忘れられるものではない。


実際、天使はその亀姫の姿を再び見て、

正直なところ、恐ろしいというより(美しい)と心を奪われそうになっていた。



「……あら、思っていたよりも怯えたりなさいませんのね?」


そう亀姫に声をかけられて、天使は見惚れていた自分に気づき慌てる。



「っ、ぁ」


「ふふ。怯えようと怯えまいと、どちらでもよろしいですわ。

私は魔王陛下のお言葉でここに来ただけですもの。貴方に好かれたいわけではありませんのよ」



クスリと笑って御簾のそばに腰掛けた亀姫は、端にあった美しいその房を掌で弄び始めた。



「でも、そうね。陛下の大事なお客様と思うと躊躇われるけれど、いまはここにワタクシと貴方しかおりませんの。少しばかり、無体をしてもよろしくて?」


「え…」



亀姫の言葉に思わず身を固くする天使だったが、亀姫はそんなことをお構いなしに、その弄んでいた房を手放す。

そして御簾の端をくるくると巻き上げ、番に房をかけて止める。



「ふふ。御簾ごしにお話をするなんていうのは、貴き姫君のすること。

ワタクシが臣下に会うときや、貴方が普段隠れておくにはちょうどよいけれど…女性同士ですもの。よいですわよね?」


「……」



御簾を取り除かれると、よりあざやかに鮮明に亀姫の姿が見えた。

結界ごしとはいえ、天使に向かって笑いかけてくるその女性は、魔物であると分かっていても、なお美しい。

美しく穏やかで、そして気品もあるのに、どこか親しげな亀姫に、天使はあまり嫌悪感を抱かないことに気づいた。なので、小さく、見紛う程度だったか頷き返した。



亀姫は御簾の反対側にまわってそちらも巻き上げ、

ちょうど、亀姫の背丈と同じ位だけの高さまで御簾を上げた。

魔王殿の御簾は大きく、高い。

それでもこれだけあげれば、御簾が気になるほどでもなかった。



「白い羽、それにその顔立ち。天使というのは確かに可愛らしいものですのね」


ふわりと撫でるような声に、天使は少し気恥ずかしさを覚える。

眼の前の美女に可愛いと言われることに、どこか背徳めいたものまで感じてしまうのは、亀姫の魔性ゆえだろうか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。