合流4
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天空宮殿 天守閣
「人間世界は、上の神、下の魔――そのどちらからも逃れ、丸く転がり続ける球の表面でひっそりと生きています」
「そん、な? 世界からの離別だと…? そんな。それでは、まるで・・・・・・」
「父君と魔物による全体侵略。地表の全体に魔素が充ちていた……くく。我ながらド派手な大仕事だったがな」
「地表は焼き尽くされたのではなく・・・」
「引き剥がされたのですよ。陛下の、魔素を操る御業によって」
「そんな、強引で荒い方法で。一歩間違えば、滅亡ではないか」
「……滅亡したならその時はその時だ。元々は父君の侵略戦争・・・滅びるはずの物だった」
「なぜ? いったい、なぜそんなことを? 何が目的だった?」
「………――目的など知りません。ですが陛下はおっしゃいました。『お前自身が、代価となれ』と」
「お前自身が…代価…?」
「自分は、自分の世界を買ったんですよ。自分自身と引き換えに。――”勇者”の存在と引き換えに、この世界を守ってくれと願い出た。
自分はこの若き王に仕えることでしか、あの世界を守る事が出来なかった無力な勇者。魔王と交渉して世界を守ってもらう勇者なんて。どこの冒険譚でもみたことがありません」
「だが、そもそも侵略してきたのも魔族だろう!?」
「ええ。そして、自分を勇者などにして人間世界侵略戦争の原因を作ったのは――貴方です」
「――ッ それは! 違う!勇者を作ったのは、確かに人間世界の平和のため…!」
「救いも絶望も一方的に与えられる不条理から、陛下は解き放ってくださった。
だから、自分は生涯を捧げると約束した。今の僕にとって、神もあなたも―― 正直、目障りです」
「絶対の聖たる神に、なんという…! それまでニンゲン世界を導いていたのは誰だと思っている!?
幾多なる内紛、種族同士での殺し合い、その全てに我々は無限の愛をささげてきた!!」
「………無限の、愛…ですか?」
「そうだ! 神はヒトの全てを愛し、見守ってきた! 決してお前と敵対する存在ではなかった!」
「……愛、ねぇ」クク
「愛情・・・感じたこと、あったでしょうかね」
「な……」
「世界は広い。さしづめ、よく見もせずに天からばら撒いていたのでは?」
「土に肥料をまくようにですか? 博愛だなんて言って、『薄愛』なんですね」
「ククク。神の愛情とはかようなものか。勉強になった」
軽口をたたきながら、近衛と魔王が戦神妃を挟み込む。
縋るとも憐れむとも言えない目で近衛を見上げてくる戦神妃。
そして、うつろに絶望を浮かべた蒼白の顔で、一言。
「魔王…… 私は。 神は…決してそんな存在では……」
「―――その表情。演技ならば、見事だった」
前から、魔王の刀が。
背後からは、近衛の剣が。
「――ああ…魔王、君が私を信じられないのは……私たちの、最大のあやま……――」
―――ド゛シュッ………
剣と刀が同時に突き刺さり、戦神妃はゆっくりと瞳を閉じた。
貫いていた刃物を胴から抜きはらわれると、ドサリと臥して動かない。
戦神妃は、確かに強い力を持っていたようだ。
死後に体内から抜け出ようと溢れる浄気はとどまるどころか勢いを増していくばかり
。
獣王たちや亀姫は、浄気にあてられ苦しそうに身をよじっている。
「……なんて浄気ですの… っ、これでは…っ」
「…………」
「陛下・・・?」
魔王は、戦神妃の最後の言葉に気を奪われていた。
あんな最期の最期まで、演技を続ける必要があったのだろうか……
「っ、陛下。どうかお願いです…これ以上は、皆の身体に障り動けなくなりますわ!」
「――……」
「陛下… どうぞ、帰りましょう? 私たちの穏かな日常へ……」
「――ああ」
亀姫の言葉に素直に従ったのは
責任逃れにすぎなかったのかもしれない。
判断が正しかったのか、自信が持てない。後味の悪い勝利。
だが、いまは一刻も早くここを離れる必要がある。
魔王たちが部屋を立ち去って、しばらくの後。
聖骸の首と、戦神妃の躯を並べ、その横に力なく座り込む影が一つあった。
羽の毟り落とされた翼は、大きく歪んでいる。
「………間に合った…っ」
手を合わせ、声を震わせて 胸の前で刻んだ十字。
神界に残るは、ただ彼一人。
鎮魂の歌を捧ぐ彼の心象を知るものなど いるはずもなかった。




