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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
77/99

合流3


「……………………戦神妃、といったか」


「………っ!!!」



「よく、ここまで俺に夢を見せてくれたものだよ。……褒めてほしいか?」


「ま、魔王…! あ、これは…!」


「……今なら、初代魔王がどれほど神を憎んだかわかる気もする」


「待ってくれ! 魔王、私は――!!!」


「正体すらも欺かれていたとは、さすがに予想外だった」



魔王が目を伏せたのと同時、獣たちは一斉に身を固くして尻尾を丸め込んだ。

噴き出した匂い。脳髄を焼き焦がす、死の香り。



「どうやら信じるべきことなど………、ひとつもなかったようだな」



「違う… 名を偽ったのは、お前と話などできないと思っていたからで……」


「………もう、いい。今度こそ、充分だ」


「!!」


言い捨てると同時、充分すぎる殺気を刀に纏わせる魔王。

屠るために構える時間など、本来は必要ない。


それでも構えたのは、生を惜しむ時間を与えるためか。

あるいは、罪に恐怖という罰を与えるためか。それとも――



「お前が…」


「……?」


「お前が、来たせいで……お前が、いなければ…っ あと少しで、理想郷への道が開けたというのにっっ!!」


「……心外ですね。そもそも我々を呼びつけたのは、そちらです」


「お前のようなもの、呼んでなど―― 



ギッと、魔王の後方にいる近衛を睨み付けた戦神妃。

真正面から視線がぶつかった後、先に顔色を変えたのは戦神妃だった。



「…っ!」


「……自分の事を呼んでない、と?」


「おまえ、は…」


「ああ、覚えていてくださいましたか」



「……自分は、すぐにわかりましたよ。貴方の声には聞き覚えがあります…」



「まさか………『勇者』……っ」


「………」



「ああ、その響き。間違いなくあなたが、自分を巻き込んだあの時の『声』だ」


「………まさか…そんな。勇者は、魔王による人間世界侵略で…」


「そういえば、神には言えず仕舞いでしたね。代わりに貴方に語っておきましょう。

死ののちに行き着く場所があるならば、そこで神にも教えてあげてください。自分の、昔話を」



「………」




~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~



近衛の人間時代――

地上


突然に襲い掛かってきた魔物。

大切な妹が襲われるのを見ても、助けに行けばより酷いことになると 諦めて立ち去った、まだかすかに幼さを感じさせる顔立ちの青年。


無力感と、激しい刺傷痛。

炎と煙で赤黒く染まっていく空と、朦朧とする頭。現実以上に、思考そのものが世界を歪ませて見せていた。



「……ハァ…ック、 ァ、は、ァ……痛ッ…」



この世界には、もう自分はいられない。

迷惑を掛けた。


厭われて、狙われて。

愛しいものも守るべきものも、守れないままに見捨ててしまった。


「ぁ…ぁ、ぁぁ……っ」



急激な寒気。怪我のせいなのか熱もある。


寒い。暑い。痛い。苦しい。悲しい。虚しい。

嫌悪感。拒絶。不安。恐怖。後悔。怒り。


炎風のごとき勢いで駆け巡る感情に、目を回す。

足がもつれて地を踏む感触がわからなくなる。


確かめようと足元を見た瞬間にバランスを失い、青年は顔面から崩れ落ちた。



――いやだ……



「嫌だ… 嫌だ、嫌だ嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!


 う、うぁあああああああああああああ!!!!!」


地に這ったまま叫ぶその口に、土がへばりつく。

血の味。土の味。動く気力を失った四肢。


地を這う虫になったようで。

なのに、虫けらなどよりもよほど無力だ。

何者も信じられない。それなのに、縋りたい。


ぼろぼろと流れ出す涙。

悔しい。悲しい。このまま終わるだなんて……  寂しい。



もしもまだ、間に合うのなら。

どうかこの世界と、愛しいものを救えるのなら。




惨めで憐れ。

こんな姿で叫ぶしかできない情けない自分を、誰か同情してくれるだろうか。

世界中から憎まれた今、こんな自分に同情してくれる人がいるだろうか。


もしもいるのなら、聞いてほしい。

救いを乞い、助けを求めるこの声を――


「どうか、お願いです…助けて、ください……」



『――……探したぞ。世界一の、不幸者…』



いつからそこにいたのか。

驚くだけの生命力も残っていない。


顎を地に擦りながらもたげた首で、声を見上げた。



『…この世界をお前の望むように救ってやろう。ただし――…』



「……約束、する…。どんな、こと…でも…。いつ、まで…でも……」


『…いいだろう。では…』



パタリ、と木片を打ち鳴らすような音が響く。

カタカタと地が震え、急速に風が吹き荒れていく。

何が起きているのか、地上15cmの目には何も映りはしない。


声だけが、鮮やかに脳に飛び込んでくる。



『さあ祝え。今日を持って尽きたこの国は、今日をもってまた生まれる。これは、生誕祭だ』




あの日、僕たちの世界は守られた。


突然 魔物達が襲来したときのように

突然に、この国は救われた。



魔王とその特異すぎる力によって、地上は世界から”はじきだされ”ていた。



~~~~~~~~~~~~~~~

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