合流2
「!!」
「!? こんな時に、何者だ!!」
誰よりも先にピリと空気を張りなおしたのは魔王だった。
叫び声とほぼ同時、大きく崩れて開いた入り口に近衛と亀姫が姿を現す。
「陛下ッ!! ご無事ですか!?」
「近衛… それに、亀姫……」
「お待たせいたしましたわ、陛下。ただいま御前に参上仕りました」
「…っ。ようやく、来たカ…。良かっタ……」
誰よりも深く安堵の息を吐いたのは獣王だった。
獣たちは先ほどから、魔王にかける言葉を見つけ出せずにいたからだ。
魔王の迷いを目の当たりにしてしまった獣王。
すがるように希望を求める“匂い”が魔王から漂ってくるのを、その嗅覚で感じ取ってしまっていたのだ。
そしてその匂いは、今もまだ消えていない。
目の前で籠絡されてしまいそうだった絶対的な主人、魔王。
もし神の手を取っていたなら、獣たちは従うしかなかった。統率は乱せない。それが獣の掟なのだ。
主人の想いを知りながら、神に食いつき言葉を止めるべきなのか……
獣たちもまた、葛藤に苛まれて身動きが取れずにいた。
(魔王サマは… なんト、答えルつもりだったのだろうカ…)
獣王はそんなことを思いながら、魔王のすぐ脇で牽制の姿勢をとりなおす。
獣たちも、新たに入ってきた近衛たちに合わせて編成を組みなおしていった。
「……貴様等…ことごとく邪魔をしおって…」
「うふふ。貴女こそ景観の邪魔ですの。陛下のお傍に控えるにしても不釣合い…身の程をわきまえなさって?」
「貴様! 誰に向かって口を利いている!」
「……全員下がっていて構わん。神は既に戦意を――」
「いいえ。油断なさらないでください、魔王陛下」
「……油断だと?」
「陛下は騙されているのです。 ……そいつは、神ではありません!」
「――何…?」
「!!!」
ゆらり、と。
視界に神を捉えた魔王の瞳が、揺れた。
「地下に、本物の神がいました…! そこにいる者は神の護衛だという、『戦神妃』です!」
「なっ…… お前ら、なぜそれを…!?」
神が目を見開いて驚嘆した時点で、それが事実かどうかなど答えは明白だった。
それでも魔王はゆっくりと刀を握る手に力を込め、静かな声で聴き返す。
「…近衛。それは、確かなのか」
「はい! 天使の父を名乗る者が別の塔に閉じ込められており、その者より聞き出しました!」
「天使の…父…?」
「……まずは陛下、こちらをご覧下さいませ」
剣を構える近衛に代わり、亀姫が差し出したのは斬りおとされた一首だった。
「なっ!?」
首だけになってもなお美しい顔立ち。
血の気のない肌は決して土気色に染まることはなく、
青ざめた氷の結晶のように透けてみえる。
一目見れば、その首が特別なものであるとわかる。
「………これが…本物の『神』、か」
「あ、あああああああっ!?!?!? 神様! 神様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
跪いていた神――戦神妃は、立ち上がることも忘れ
亀姫の腕の中にあるそれをみて絶叫していた。
神の名を呼び、狂乱する戦神妃。
魔王はその姿をしばし見つめた後で、自嘲気味に嗤った。
「………『疑うべきことは一つもない』、か…。クク」
(魔王サマ……)
獣王だけが感じる、魔王の“匂い”の変化。
その匂いがわかるからこそ、獣王は魔王の顔を見ることができなかった。




