信頼
開いた扉のおかげで、灯りが階段を多少照らしている。
降りるよりも昇る方が随分と楽なようで、近衛は亀姫を担いだままで駆け昇っていく。
(神従者から聞いた話の通りだったか……。ならばあとは迷いなく陛下の助力になれる――)
陛下を討つつもりだった神。それを討ち、今まさに陛下の元へ駆けつけている。
近衛の駆ける足は勇み、軽く疾い。
階段を昇りきり、亀姫を一度降ろしてから彫像の穴をくぐり出る。
周囲を確認するとすぐに亀姫を引き上げ、近衛はまた亀姫を担いで正門へと走った。
「…亀姫様、まだ気分は優れませんか」
「いいえ、もう大丈夫よ。自分で走れるわ」
「ですが顔色がまだ戻らぬ様子。念のためこのままでいきましょう」
「……私、そんなに顔色が悪いかしら?」
「ええ。一体どうなさったのです。陛下がご覧になったら、きっと心配なさいますよ」
突然に魔王の名を出され、
亀姫は顔色を変えている自分を恥ずかしくも情けなくも感じた。
だがそれはすべて近衛のせいだ。
亀姫の中に、ふつふつとした怒りが湧き上がる。
「さあ。しっかり捕まっていてくださいね、亀姫さ……
「貴方がいきなりおかしな演技をはじめたせいですわ」
「え? 自分のせい…ですか?」
きょとんとした顔の近衛。
亀姫がため息まじりに視線を落とすと、反対の腕に抱かれている神の首が目に入る。
無事に、神を討った。
近衛はこうしていても、魔王の元へ駆ける足を緩めていない。
「私がどんな気持ちで、あなたの言葉を聞いていたと思っているの…」
「神を欺くために演技をするというのは、打ち合わせていたはずです」
「打ち合わせた演技と違いすぎましたわ!」
亀姫は担がれたままで、近衛の耳元にどなりつける。
近衛は驚いたが、亀姫の怒りを察すると慌てて弁明を始めた。
「す、すみません。ですが神を信じさせるには、あれくらい言わなくてはと思ったんです」
「あれくらいって…」
「分が悪いから神につくことにしましたなんて、 いくらなんでも信じないでしょう?」
「だからって、よりによって陛下を憎んでいるだなんて!」
「魔王を憎んでいるから神側につく。そう言えば、信じるにたやすい動機となる」
「確かに口にしたくもない嘘ですが。……不審がられて、余分に時間を食うことが何より嫌だったのです」
「……」
「あの話は亀姫様から聞いた "もしもの未来"を想像しての作り話ですよ。印象深かったので、神を見たときに思い出して。すぐに利用する手を思いつきました」
「……あ、あの場でああすることを思いついたというの…!?」
「はい。元々が亀姫様から聞いたお話だったので、きっと亀姫様もすぐにわかってもらえるだろうと」
「……もともと自分で想像したからこそ、ありえてもおかしくないと思ってしまいましたわ」
「……そうでしたか。まさかそのせいで血色を悪くされていたとは…本当にすみません」
「…………」
黙り込んで、天空宮殿を駆けあがっていく近衛。
その肩に抱かれながら、亀姫は僅かに沈んでいた。
(……確かに、驚かされた。だけど、私の顔色が悪いのは……きっと…)
きゅっ、と。
近衛の背中に、亀姫が捕まった。
「亀姫様…?」
「……ごめんなさい。あなたは陛下のために必死だっただけね」
「いえ。混乱させたのは事実です、お気になさらず」
「……そうじゃないの。私は、あなたにやつあたりをしたから謝っているのよ」
「………?」
階段を駆けていく近衛。
争いの跡を踏み越えていく近衛に、いちいち相槌を求めるのは間違っている。
亀姫は、自分がせめて重い荷物にならないようにと姿勢を変え
近衛にしがみつきながら前方を見る。
道のりにある邪魔なものを結界術で弾き飛ばし、サポートに回った。
「ありがとうございま……
「―――あなたを疑ったわ」
「……え」




