畏怖3
あっさりと述べたのは、希死念慮ともいえる意思。
どこかぼんやりとした物言いは、自分の生死などに興味はないと言わんばかりで。
亀姫ですらも、近衛の発言には薄ら寒さを感じた。
『だが、何故… 何故、魔王の近衛になっている……!?』
「あはは! やっぱり信じられませんよね。僕もたまに信じられないんです!」
「あいつら、いきなり乗り込んできて、人の世を燃やし尽くしたんですよ? 目の前でたくさんの人が死んだんです。それを見てた僕自身も、死ぬ寸前でしたけどね!」
芝居がかった陽気さ。
本来ならば、笑って言えたセリフではない。
『で、では お前は本当に魔王を殺すつもりで…!? その為に、魔王の配下となったと、そういうのか?!』
「あー。もうやめてください、面倒くさい」
『めんど…』
「神族って話が長すぎません? 僕のことなんか今はどうでもいいでしょう。それとも時間稼ぎのつもりですか?」
『違……!』
急に態度を変えた近衛に、神はさらに言葉を詰まらせる。
不機嫌をあらわにした近衛の声。なげやりな口調。
「……質問してるのは、僕ですよ。先に答えてください、神様」
『何を――』
「貴方を殺せば、魔王も殺せるんですか?」
キンッ――
近衛が、一瞬で駆けた。
大剣が神の首元に添えられ、薄皮に引っかかり、肉を押す。
ヒ、と息を呑んだ神のその動きで薄皮が小さく裂けた。
『――――ひっっ』
「……ああ。これじゃ答えられませんね。少しだけ力を緩めてあげましょう」
近衛の言葉を聞いた神が、ゆっくりと息を吐く。
喉の動きに合わせて、添えられた刀も小さく揺れた。
『やめ…ろ…! お前の存在は、計算外だ……!』
「計算外…?」
『そ、そうだ…』
「どう、計算外なんです? 何を謀っていたんです?」
『それは―― ! っそ、そうだ!』
「?」
神は落ち着きのない焦点のまま、必死に言葉を紡ぐ。
震える唇や乱れた息継ぎに阻まれながら、神はようやく こう言った。
『お前も、我が楽園で共に生きるが良い……!』
「楽園……ですか?」
黙して、さらに力を緩めた近衛。
神はそんな近衛の態度に安心したのか、一気にまくしたてた。
『そうだ! 憎しみも恨みも忘れ、新しい世界で、全てをはじめからやりなおせば きっと―――
「…………きっと…?」
『きっとお前もまた、救われるだろう――……!』
まだ震えていたが、神はまっすぐに近衛を見つめていた。
自らの提案に自信があるのだろう。
どうだ、と問い詰めるような神の視線。
先に目をそらしたのは、近衛だった。
「…全てをはじめからやりなおす、新世界…ですか。憎しみも恨みも無い楽園……なんだか魅力的ですね」
「そうだろう。この戦はそれを目指して仕掛けられたものだ…!」
「その楽園作りが、戦の動機なんですか? では、この浄気は?」
「この浄気は、楽園を形成する要になるものだ…。魔素を打ち払い、浄気を充分に満たすために必要となる……」
「………そうでしたか。この結界、そんなに大事なものだったんですね」




