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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
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疑惑2


亀姫の知っている近衛は、堅苦しくて生真面目な朴念仁だ。

こんな風に笑顔を浮かべて、ずけずけと軽薄そうに物を言う人物ではない。



(……あ、でも。これまでも時々、軽薄な口説き文句みたいな事を口にすることもありましたわね)


(近衛の職をしている時が真面目なだけで、本来はこういう人だったりするのかしら?)



そんな疑問が浮かびあがると同時、

亀姫の心には不安も湧き上がった。



(……近衛の、本来の姿…?)



・・・・・・・・・・・・


―――獣王『あいつは不穏デ、不吉な匂いがすル』


―――『……自分は、ニンゲンなのですよ』


―――『近衛… いや―――  “元・勇者”』


―――『配下に下り、忠臣となるまでには、一体何があったのでしょうね』


・・・・・・・・・・・・・・



亀姫の頭の中に、様々な言葉が浮かび上がる。

ここまで行動を共にすることで、近衛は魔王に忠誠を誓う仲間だと信じるようになった。


だが、信じてよかったのだろうか。

こんなに演技上手な近衛は知らない。近衛のこれまでの発言が真実であったと証明はされていない。


(……大丈夫、よね。 まさか、私自身が近衛なんぞの策に嵌っているなんて事は――)



・・・・・・・・・・・・・・


―――『……もし、ニンゲンが本当に魔に滅ぼされていたら…。……近衛はどう思ったかしら?』


―――『……ひどく…魔を、恨んでいた…? 憎んでいたかもしれない…』


・・・・・・・・・・・・・・



ゾクと背中を走った悪寒。

掌に肉塊を乗せてにこやかに微笑んでいた近衛の表情を、思い出した。


あの時に感じた恐怖は、本当に忘れてよかったのだろうか。

亀姫は自らの指先が冷えていることに気付くと、そっと握りしめた。



(……大丈夫。坊やの忠誠が本物だとも思ったはず。今は神の下手にまわるため、魔王陛下をうらぎったかのように見せつけているだけ。おかしいことなんて、ありませんわ)



ちらと視線をあげて覗き見た近衛は、

不躾な子供のように、始まりの間をふらふらと歩いている。


神の後ろにあったのは、部屋ほどの大きさがある水槽。


実際は巨大な結界なのだろう。

水槽に見えるが、その中に閉じ込めた浄気のせいで水槽に酷似して見えるのだ。


中身が揺れ、気化しては水に戻る。

時に凍り付き、気泡がはじけるように割れて、周りを揺らす……そんな、不思議な水槽。


近衛はそれをジロジロと眺めている。

時々口に手を当て、おかしそうに笑いを零している。


神はあまりにも不審すぎるそんな近衛の態度に警戒し、近衛を睨み付けていた。



『動くな。おまえは目の前のこれが何かは知っているようだな…』


『容易に手を出せば、ただでは済まぬ。 何がしたい』



近衛は神の言葉を聞き、ぴたりと足を止めた。

身体は水槽のほうを向いたまま、首だけを僅かに回して神に微笑む。



「聞いてくれますか? 実は、自分は魔族に少しばかり恨みがありましてね」


「貴方ならば、魔王を確実に殺せる…… そう聞いて、わざわざこんなところまで来たんですよ。 頑張ったでしょう?」クスクス




(………っ 近衛…)


『おまえ、何を……?』



握りしめた指先が、どんどん冷たくなっていく。

近衛の声が、頭に響く。大丈夫だと言い聞かせる自分の声が、小さくなっていく。




「教えてくださいませんかね。どうやって、これ使うんです? 貴方が鍵か何かを持ってらっしゃるんですか?」





「――神様。あなたを殺せば、魔王を殺せるんですか?」ニコリ




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