神の警戒2
「そんな事で油断するかしら」
「元々、こちらにいる本物の神は戦闘向きな方ではありません。直接戦闘に持ち込めば、倒すこと自体はそう難しくない――それは神もわかっているはず」
「だからこそ戦闘するつもりなどないと態度で示すのです。倒せるほどの力を持っていてなお神に従うことで、安心もするし、彼の虚栄心も満たされる」
「……安い虚栄心ね」ボソ
「ともかく神が満足したその隙をついて、浄気を使わせぬうちに――……っ」
言葉を止めた神従者
気まずそうに口元をもごつかせている
「使わせぬうちに、殺すのね」
「………はい…」
最後の最後で、自らの作戦に躊躇いを垣間見せた神従者。
亀姫はどうにも一抹の不安を拭いきれずため息をつく。
呆れずにどうにかこうにかこの作戦を続けていられるのは、
不慣れな土地と足りない情報で、神従者の策よりも確実な別の策を自分が出せないからだ。
それにいざ作戦を実行するとなれば、采配を握るのは近衛となるだろう。
近衛には獣王のお墨付きの強さもあり、魔王への忠心も厚い。
そこに鉄壁の守護を誇る亀姫がついているのだから、策を読み違えていてもその場の対応くらいは出来る。
まともだと確信できる策は、その時点となってようやく立てられるようになる。
それまでは何をしようとどれも同じようなものなのだ。
「そう珍しくもない懐柔作戦ですけれど、そのように媚びいる時間があるかしら」
「先ほどあなたが言った通り、戦神妃と魔王の戦は“魔王は勝てないけれど負けることもない”戦いです」
「勝敗を決めるトドメとなるのは、神の放つ強大な浄気による攻撃…。戦闘によってトドメを討とうとすれば、不利を悟った魔王に逃げ出される」
「手負いの獣に対して、武器を掲げて深追いするのは愚かです。睨み合ったままで、確実な一撃を食らわせる瞬間を待つでしょう」
「戦神妃は、トドメは刺さずに神の一撃を待つということね」
「ええ。おそらくある程度まで痛めつけたのち、戦神妃は魔王を逃がさぬために話などをしはじめるでしょう」
「話…?」
「魔国に逃げ帰られては、集めた浄気を活かしきれない。どうにかあの場に縫い止めておくために、甘言の一つもいってそそのかすんですよ」
「……本気で言っているの? 先ほどから聞いていれば、神の下手にまわって神を懐柔するだとか、甘言で陛下をそそのかすだとか……。まともな作戦に聞こえませんわ」
「戦を本分としない神族にとって、言葉というのは最強の武器であり防具ですからね」
「物理戦よりも口先の心理戦がお好みで、神族にとっては主流なのね」
「…馬鹿になさっているかもしれませんが、口先だって鍛えられます。神族の甘言は侮れませんよ」
「だからって魔王陛下がそんなものに乗せられるとも思いませんの」
「……まぁ、確かに戦神妃は神に比べると口先はうまくないのが確かに心配なんですけれど」
「そうなの?」
「ええ、まあ…なんというべきか、戦に特化した女性神らしい方というか」
「頭を使って話をしているつもりなのでしょうけど、説得というよりは情に訴えるような話しかできない方ですよ。筋道を並べて話すべき所で、思いついた言葉が先に口から出てしまうから」
「ああ。よくいらっしゃいますわね、そういう方」
「――まあ、そのやり方で情に訴えた物言いをするから、とても必死そうに見えて 皆が彼女の手を取るんですけどね」
「神従者……?」
「あ…。失礼しました、気にしないでください。ワタシも以前、彼女の甘言に騙されたクチでして」
「………馬鹿ねぇ」
「はは…お恥ずかしい。ですが神が充分に推敲した話を用意しているでしょう。彼女はそれを使って魔王をその場に縫いとめるだけ」
「……どんなよい話でも、聞き入るかどうかは語り手次第ですわよ」
「……そう、言われると。魔王が話を聞かずに逃げ出し、戦神妃が深追いして殺そうとしはじめたら、神の作戦は台無しですね」
「逃げて魔国にまで辿り着ければ、魔素を補充できる魔王が勝ち。その前に仕留めれば戦神妃の勝ちになるという…。普通の、結果の見えない勝負になってしまいますね…」
「あ、あなたねぇ。そんなことでは私たちの行動まで無意味じゃない、もうちょっと堅実に――」
「………たぶん、それは大丈夫です」
亀姫・「「え?」」




