神の迎合5
「……そんなわけは……!」
「罪人である彼は、自らとその末代にいたるまでに苦行を与えた…。自分でそうしておきながら、“どうしたってそうなってしまうのだから諦めろ”と教え込んだ」
「そうして子孫となる魔王たちは、自らで悪を演じるようになった。“どうなってもそうなのるだから、最初からそうあるべきだ”と…」
「最初から自分が悪なのだと思わなければ、心を壊して生きていけないからと。悪としての振る舞いを、その生き様に叩き付けて代を重ねたんだ」
「………っ」
「どんな姿になろうと、魔王の元となったのは天使…我らの仲間であったことに違いはない。我らはそんな魔王の姿を見るたびに心を痛めた」
「そんな時に生まれたのが、人間世界だ」
「…魔と浄の狭間で生まれた亜種。それが人間だった」
「その頃の神は、女性神だった。魔と浄の狭間で生まれた人間を、神と魔王の子供として慈しみ、守ると宣言したのだ」
「……だが、魔と浄の中間に生まれた人間は非常にもろく、危うい存在だった。人間を守るために…導くために、我らは常に善で在り続けることを強いられることとなった」
「だからこそなおさらに、常に悪に置かれていた魔王に対して罪悪感を感じて――万策尽きたと感じた。神と魔の接触はタブーとなった」
「……は。タブーとなったのに、今度は戦を仕掛けてきた? 随分とおかしな話じゃないか」
「……疲れたんだ」
「善でなくてはならないとか」
「悪でなくてはならないとか」
「疲れ果てて、一縷の望みをかけた。いや、こんなものはやけっぱちとしか言えない策だった」
「なんのことだ…」
「人間を守ることを、やめたんだ。人間に勇者を与え…我が剣を託した。自分たちで自分たちを加護できるように、と」
「は…はははは! 傑作だな。勝手に守っておいて、勝手に見放したのか!」
「我らが導くことが、誰のためになる? わかりやすい善悪の見本を示す必要は本当にあるのか?」
「見本となり続けるために、多くの想いを犠牲にして……そこまでして見せなくては、人間は本当に善悪の区別もつかないのか…?」
「また我らは自我に満ちて、過保護なことをしているのではないか…そんな疑問だった」
「そして勇者を選定し、人間自身が人間を和平に導けるよう… 手を放し、見守ることにしたんだ」
「………見守る…? 散々守っておいて、勝手な都合で手放して? ……俺にはそれは、一方的な“神の試練”に聞こえるな」クク…
「―――っ」
突きつけられる事実に顔を赤く染め、拳を強く握りしめる神。
魔王はそんな神を蔑んだ目で見つめた。
「……ああ、そうだ…っ! 結果、それは人間たちにとって越えがたい試練となった」
「魔王… 先代といったか。魔王が勇者を滅ぼしに進軍したことで、人間たちまでもが“魔”を憎むようになってしまった!!」
「……」
「我らの力では、魔に対抗もできない……ッ せめて真実を教えるべく、一人の人間を連れ帰り、癒し、魔を憎む心を拭い去ろうとした…!!」
「そんな人間がいたのか」
「………真実を教えたことで…彼は発狂し、死んでしまった」
「………」
「そんなことに気を取られているうちに、気が付いたら人間世界が消えていた」
「……もう、守るべきものもない。だから、全てを失う覚悟で、この戦を仕掛けたのだ」
「よくできた話だが、それが真実であると証明はできるのか?」
「……できない。それが事実があろうとも、疑って裏を考え続けることに慣れすぎてしまった…。否定しようと思えばいくらでも否定できる我らには、証明など不可能だ」
「……疑うことはあまりにも簡単で。信用することはあまりにも難しいな」
「…………」
「お前たちの最終目的は何だ。魔王から赦しを請い、自らの罪悪感を消すことか」
「! 違う!」
「ここまで話したのだ、最後まで語るがいい。語りとも騙りとも区別をつけず、聞いてやろう」
「…世界を、元のようにひとつにしたい」
「なんだと」
「世界は、元々は1つであるべきなのだ」
「悪など。善など。そんな区別が生まれる前は良かった。繰り返される戦も、止むことのない災厄も何もなかった!」
「どうか、赦してくれ。そしてどうか手を取ってくれ、魔王!」
「我が話を最後まで聞き届けてくれたお前なら、きっと新しい唯一世界でも……良き隣人となれる!」
「一つになろう」
「戻ってきてくれ。 ここから先の時代を、共に歩んでいこう… 魔王……っ」
「な………。馬鹿な、完全に魔と浄が対立しているのに、そんなこと出来るはずが……!!」
「魔王! どうか…」
「どうか、私を信じてくれ――……!!」




